大阪高裁平成31年1月31日判決(労働判例1210号32頁)

1審原告の性格等は、同様の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではなかったとして、民法722条2項の類推適用による減額をしなかった事例(上告後上告不受理)


【事案の概要】

(1)1審原告(昭和51年〇月生・男性)は、平成21年7月25日、訴外B株式会社(以下「B社」という。)の「〇〇店」(以下「本件店舗」という。)のアルバイトとして採用され、同年8月1日、正社員となった。その後、B社が1審被告に吸収合併されたため、1審被告の社員となった。
   A班長(昭和54年〇月生)は、平成21年12月に1審被告に入社し、平成24年4月、本件店舗に転入した。

(2)A班長は、ホールスタッフが全員装着しているインカムを通じて、従業員やアルバイトに対し、大声でミスを指摘したり、激しく叱責した。A班長は、注意の口調が厳しいばかりか、注意を受けた者が言い訳をすると、激昂して、「帰るか。」「しばくぞ。」「殺すぞ。」といった発言をした。1審原告が、平成24年5月か6月、A班長に対し、上記のような指導方法は適切でないと述べた。すると、A班長は、その後、1審原告を個人的に攻撃対象とするようになった(詳細略)。

(3)1審原告は、平成24年10月2日勤務終了後から不眠状態となった。1審原告は、同月6日、意欲減退、倦怠感、食欲不振、睡眠障害を訴えて、E病院を受診し、うつ病と診断された。1審原告は、同日付診断書を1審被告に提出し、同日から1審被告を休職した。その後、1審原告は、平成25年1月31日付け退職届を1審被告に提出した。

(4)北大阪労働基準監督署長は、平成25年10月11日、1審原告のうつ病発症に1審被告における業務起因性を認め、平成24年10月6日から平成25年9月30日までの間の休業補償給付190万0311円(給付基礎日額8872円・休業補償給付金日額5323円)の支給決定をした。
   その後も、休業補償給付金の支給は継続され、1審の口頭弁論終結日である平成30年3月27日までに1審原告が受領した休業補償給付金額は合計1056万5914円となった。

(5)原判決(大阪地裁平成30年5月29日判決・労働判例1210号43頁)は、1審原告の本件請求を、572万3434円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる範囲で一部認容し、その余の請求を棄却したため、双方が控訴を提起した。


【争点】

(1)A班長のパワハラの有無(争点1)
(2)D店長によるパワハラ容認の有無(争点2)
(3)原告のうつ病の状態(治癒の有無)(争点3)
(4)上記(1)(2)と原告のうつ病との因果関係の有無(素因減額の当否を含む)(争点4)
(5)被告の法的責任の有無(争点5)
(6)原告の損害(争点6)
   以下、争点4(因果関係)のうち、素因減額の当否についての、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、A班長のパワハラ行為(争点1)及び素因減額の当否(争点4)に関して、1審は、以下のとおり判示した。
 ア A班長のパワハラ行為について
   「原告のうつ病発症前6か月間を検討するに、平成24年4月に本件店舗に転入したA班長は、原告の勤務態度を問題視して降格的配置をしたり、叱責を繰り返したばかりか、とりわけ、同年7月15日、本件店舗の経験の長い原告がA班長と対立した際には、「お前もほんまにいらんから帰れ。迷惑なんじゃ。」と発言して、パチンコ台の鍵を取り上げようとし、同年9月6日には、「お前をやめさすために俺はやっとるんや。店もお前を必要としていないんじゃ。」と発言して、スピーカー線破損の始末書作成を強要し、同年10月2日には些細な指示命令違反の有無を捉えて、「嘘つけ。お前いうこと聞かんし。そんなんやったらいらんから帰れや。」と発言した上、反抗に対する懲罰として、原告を1時間にわたって、カウンター横に立たせたこと(以下「本件パワハラ行為」という。)は、業務指導の域を超えた原告に対する嫌がらせ、いじめに該当し、その発言は、原告の人格を否定するような内容であって、パワハラに該当する。」
 イ 素因減額の当否について
   「ストレスー脆弱性理論によれば、心理的負荷の強度が非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても、精神的破綻を来し、個体側の脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さい場合にも精神的破綻を来すこととなるところ、前記1(1)の認定事実(略)によれば、原告とA班長は常時同勤ではなかったこと(勤務時間が重なるのは半分程度)、本件パワハラ行為による心理的負荷は極めて強度とまではいえないこと、更には、原告のうつ病は既に5年半に及ぶも改善の目途が立っていないことが認められ、これらの事実によれば、個体側の脆弱性がうつ病発症及び長期化の素因となっているものというべきであって、それは、損害賠償額の認定に当たっては衡平の観点から斟酌すべきであって、民法722条2項の類推適用により、原告の損害からは、25%の減額を行うのが相当である。」


【裁判所の判断】

(1)素因減額の当否について
 ア 本件のように、上司からパワーハラスメントを受け、うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求においても、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生または拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で考慮することができると解される。
   しかし、企業等に雇用される労働者の性格等は多様のものであるところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格等が当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができ、しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するかどうかを判断して、その配置先、遂行すべき業の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格を考慮することができるものである。
   したがって、労働者の性格が、上記同様の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、上司からパワーハラスメントを受けて、うつ病にり患したことを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として考慮することはできないというべきである(最高裁平成12年3月24日判決・電通事件・労働判例779号13頁参照)。
 イ これを本件についてみるに、本件全証拠によっても、1審原告の性格が、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできない。
 ウ これに対し、1審被告は、本件では、以下のとおり、1審原告については80%の素因減額を行うべきであると種々主張するが、1審被告のこれらの主張は採用することができない。その理由は、以下のとおりである。
  a)1審原告は、いわゆるストレスー脆弱性理論によれば、心理的負荷の強度が非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても、精神的破綻を来し、個体側の脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さい場合にも精神的破綻を来すこととなるところ、1審原告が本件パワハラの違法性の程度に比し、長期間にわたり就労不能の状態が継続していることには、1審原告の脆弱性が大きく寄与していると主張する。
   そして、1審原告とA班長とは、週6日勤務のうち、一緒に勤務していたのが3日程度であって、常時一緒に勤務していたものではなかったこと、本件パワハラ行為による心理的負荷は極めて強度であったとまではいえないこと、1審原告のうつ病は、発症後平成30年3月27日の原審口頭弁論終結時まで、既に約5年6月以上に及んでいるにもかかわらず、改善の目途が立っていないことが認められる。これによれば、1審原告の性格等がうつ病発症及び長期化の素因の一部となっていることは、否定し難いところといわざるを得ない。
   しかし、1審原告の性格等が、パチンコ店のホールスタッフとして、接客業務や清掃当の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであることを適格に認めるに足る証拠はない。かえって、大阪労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会は1審原告の個体側の要因は、調査の範囲内では「不明」であるとしているほか、証拠(略)によれば、同部会の専門医の意見として、「性格傾向については、本人の申立書によると、『温厚で、他人に気をつかう事が多い。』と記されている。I(1審原告の同僚)の聴取書によると、『落ち着いているという印象です。』と述べ、F(注:平成24年8月19日にA班長からパワハラ行為を受けたことを契機に退職した、1審原告の同僚)の陳述書によると、『きちんと常識を持った普通の方だと思います。』と述べている。その他、既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況については、調査した範囲内では不明であると言わざるを得ない。」としており、上記各聴取書には、現にそのような記載があることに照らせば、1審原告の性格等は、同様の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではなかったと認められる。
  b)1審被告は、1審原告は、就労不能とされている期間中に麻雀大会で優勝等したほか、種々の事情が存しており、こうした業務遂行の態様や生活態度も、1審原告のうつ病に寄与していると考えらえると主張する。
   そして、1審原告は、本件発症後、うつ病が継続中の平成27年5月に、以前の勤務先(注:1審原告は、平成13年2月から約5年2か月間、有限会社G(麻雀店経営)に勤務した。)等が主催する麻雀大会で優勝するなどの好成績をおさめたことが認められる。
   しかし、その他1審被告が指摘する各事情(①本件店舗従業員で1審原告以外にうつ病を発症した者はいないこと、②超過勤務の不存在、③麻雀等、私生活における睡眠不足、④労災申請書に、それまでE病院でも訴えていなかった「希死念慮」を記載するなどの虚偽の記載をしたこと、⑤妻との不仲(注:1審原告は、平成21年11月、婚姻し、平成23年には長女が生まれたが、休職開始後の平成24年12月からは、子供のため、妻子は近隣の妻の実家暮らしを始めた。)等)については、いずれもこれを適確に認めるに足りる証拠はない。また、上記事情のうち、②及び④については、強い心理的負担の有無とは直接関係がないというべきである。
 エ 以上によれば、1審原告の性格等をその脆弱性として、民法722条2項の類推適用により、その損害額から減額することは相当ではないというべきである。

(2)結論
   1審原告の本件請求は、1116万9214円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる範囲で一部認容し、その余の請求を棄却すべきであり、これと異なる原判決は失当であるから、1審原告の控訴に基づき、これを上記のとおり変更し、1審被告の控訴は理由がないから、これを棄却する。


 

仙台高裁平成29年11月24日判決(自保ジャーナル2022号1頁)

約款を適用して、原告に対して支払われた人身傷害保険金(自賠保険金を含む)をすべて、原告の素因減額後の損害に労災保険からの給付金を損害の填補として充当した後の残額に充当した事例(確定)

【事案の概要】

(1)次の交通事故が発生した。
 ア 発生日時 平成20年10月1日午前7時30分頃
 イ 発生場所 福島県郡山市交差点内(以下「本件交差点」という。)
 ウ 被控訴人兼附帯控訴人亡A(以下「第1審原告亡A」という。)車両 普通乗用自動車
 エ 被控訴人兼控訴人兼附帯控訴人(以下「第1審被告」という。)車両 普通乗用自動車
 オ 事故態様 丁字路交差点である本件交差点内に右折するため進入してきた第1審原告亡A車両の右側面前部と、第1審原告亡Aから見て右側車道から本件交差点内に直進するため進入してきた第1審被告車両の右前部が衝突した(以下「第1事故」という。)。その後、第1審原告亡A車両は発進し、歩道を超えて路外の斜面を転落して停止した(以下「第2事故」という。)。

(2)B保険会社(以下「第1審原告保険会社」という。)は、平成20年3月30日、第1審原告亡Aとの間で、その所有に係る上記(1)ウの車両について、第1審原告保険会社を保険者とする車両保険及び人身傷害保険を含む自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
   本件保険契約に係る約款(以下「本件約款」という。)の人身傷害条項には、次の規定(以下「本件約款8条」という。)がある。
   第8条(すでに存在していた身体の障害または疾病の影響等)
   ① 被保険者が第1条(この条項の補償内容)の障害を被ったときすでに存在していた身体の障害もしくは疾病の影響により、または同条の障害を被った後にその原因となった事故と関係なく発生した傷害もしくは疾病の影響により同条の傷害が重大となった場合は、当会社は、その影響のなかったときに相当する額を損害額として決定しこれを支払います。

(3)第1審保険原告保険会社は、第1審原告亡Aに対し、平成23年6月8日、本件保険契約に基づき、人身損害4,042万4,856円(うち1,195万2,695円は自賠責保険によるもの)を支払った。

(4)第1審原告亡Aは、平成28年6月27日、本件事故とは別の原因である誤嚥性肺炎により死亡したところ、平成21年5月から死亡するまでの間、C市から合計1555万円8,779円の介護保険金の給付を受けた。
   また、第1審原告亡Aは、労災保険から、以下の支給を受けた。
 ア 療養補償給付(治療費) 832万5,503円
 イ アフターケア委託費(診療費及び薬剤費) 204万3,489円
 ウ 休業補償給付(特別支給金を除く。) 106万1,423円
 エ 障害補償給付(特別年金を除く。) 258万2,737円

 【争点】

(1)第1事故の状況及び過失割合
(2)本件事故と第1審原告亡Aの頸髄損傷との因果関係
(3)第1審原告亡Aの損害額(人身損害)
(4)第1審原告亡Aの損害額(物損)
(5)素因減額
(6)損益相殺及び損害の填補(介護保険及び労災保険に係る給付金)
(7)損害の填補(人身傷害保険)

   上記(6)及び(7)は、控訴審において、新たに追加された争点である。以下、これらの争点及び第1審原告保険会社の人身傷害保険金の支払に基づく請求に対する裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(5)については、原審・控訴審とも、40%の素因減額を認めている。

【裁判所の判断】

(1)損益相殺及び損害の填補(介護保険及び労災保険に係る給付金)について
 ア 治療費及び文書代、入院雑費並びに通院交通費 0円
   上記の合計額109万4,490円には、上記各損害項目と同一性を有する労災保険療養給付の金額832万5,503円(A)が含まれていないから、この給付額を上記金額に加算すると、その合計額は、941万9,993円となる。そして、この金額を素因減額した後の金額は565万1,995円(=941万9,993円×0.6)(B)である。そこで、(A)の金額を(B)の損害額に充当すると、(注:A›Bであるから)治療費及び文書代、入院雑費並びに通院交通費はすべて填補されていることになる。
   なお、第1審原告保険会社及び第1審原告亡A承継人らは、労災保険からの給付金は、社会保障としての性質を有するから、素因減額前に損害の填補に充てるべきであると主張する。しかし、労災保険からの給付金は、過失相殺後の損害額に充当されるべきものである(最高裁平成元年4月11日判決)ところ、民法722条2項の過失相殺の規定が類推適用される素因減額においても(最高裁平成4年6月25日判決)、同様に、第1審原告亡Aの損害額から素因による減額をし、その残額から労災保険からの給付金を控除するのが相当である。
 イ 器具・介護用品購入費(平成23年9月分までの分)、器具・介護用品購入費(平成23年10月から平成28年6月までの分)及び介護関係費 286万5,049円
   上記の合計額は、2,373万9,677円(C)である。そして、第1審原告亡Aは、平成21年5月から死亡するまでの間、C市から合計1,555万8,779円(D)の介護保険の給付を受けており、(C)の金額については、社会保障としての性質上、素因減額前に(C)の填補に充当するのが相当であるから、これを控除した後の残額は818万0,898円(=2,373万9,677円―1,555万8,779円)(E)となる。そして、(E)を素因減額した後の金額は490万8,538円(=818万0,898円×0.6。1円未満切り捨て)となるところ、第1審原告亡Aは、上記各損害項目と同一性を有する労災保険給付として204万3,489円(F)の支払を受けたから、(F)を(E)の損害額に充当すると、286万5,049円(=490万8,538円―204万3,489円)となる。
 ウ 休業損害 9万0,380円
   判断枠組みは、上記イと同様である。
 エ 逸失利益 94万9,484円
   判断枠組みは、上記イと同様である。
   なお、第1審原告保険会社は、第1審原告亡Aの逸失利益を算定するに当たり、既存障害の存在を考慮しているのであるから、その逸失利益の金額に対して更に素因減額をすることは、第1審原告亡Aの素因を二重に評価して減額することになるから、公平性を欠き不合理であると主張する。しかし、逸失利益を算定するに当たって考慮した第1審原告亡Aの既存障害は、素因減額において考慮した第1審原告亡Aの素因とは別の障害に係る素因であるから、上記の主張は失当である。
 オ 入通院慰謝料 189万6,000円
   第1審原告亡Aの入通院慰謝料の金額は316万円であり、これに素因減額をすると、その金額は、189万6,000円(=316万×0.6)となる。
 カ 後遺障害慰謝料 594万円
   第1審原告亡Aの後遺障害慰謝料の金額は990万円であり、これに素因減額をすると、その金額は、594万円(=990万×0.6)となる。
   なお、第1審原告保険会社は、第1審原告亡Aの後遺障害慰謝料を算定するに当たり、既存障害の存在を考慮しているのであるから、その後遺障害慰謝料の金額に対して更に素因減額をすることは、第1審原告亡Aの素因を二重に評価して減額することになるから、公平性を欠き不合理であると主張する。しかし、上記エで述べた理由から、上記の主張は失当である。
 キ 小括
   上記アないしカのとおり、第1審原告亡Aの素因減額後の損害に労災保険に係る給付金を損害の填補として充当した後の残損害額は、1,174万0,913円となる。

(2)損害の填補(人身傷害保険)について
 ア 第1審原告保険会社は、第1審原告亡Aに対し、平成23年6月8日、本件保険契約に基づき、人身損害に対する保険金として、4,042万4,856円を支払った(以下「本件人身損害に対する保険金」という。)。本件人身損害に対する保険金のうち、1,195万2,695円は自賠責保険によるものであるから、人身損害保険金として支払われた金額は2,847万2,161円となる。
 イ 本件約款8条は、被保険者の既に存在していた身体の障害もしくは疾病、すなわち素因の影響により傷害が重大となった場合は、人身傷害保険金は、素因の影響がなかったときに相当する損害額(素因減額後の損害額)を対象として支払われるとの内容を定めたものであり、素因減額分の損害額に対して人身損害保険金は支払われないことを明記したものと解される。
   したがって、本件約款8条が適用される場合、第1審原告亡Aに対して支払われた人身傷害保険金は、すべて素因減額後の第1審原告亡Aの損害に充当されるべきものである。そして、第1審原告保険会社は、第1審原告亡Aに支払った人身傷害保険金のすべてについて、加害者である第1審被告に対して求償し得ると解される
 ウ 上記のとおり、本件約款8条を適用して、第1審原告亡Aに対して支払われた本件人身損害に対する保険金4,042万4,856円をすべて、第1審原告亡Aの素因減額後の損害に労災保険からの給付金を損害の填補として充当した後の残額1,174万0,913円に充当すると、1審原告亡Aの損害はすべて填補されたことになり、1審被告に対して請求できる金額は0円となる(請求棄却)。

(3)第1審原告保険会社の人身傷害保険金の支払に基づく請求について
   上記(2)アのとおり、本件人身損害に対する保険金4,042万4,856円のうち、1,195万2,695円は自賠責保険によるものである。しかし、上記自賠責保険による保険金額は、第1審原告亡Aの素因減額後の損害に労災保険からの給付金を損害の填補として充当した後の残額1,174万0,913円を上回る。それゆえ、第1審原告保険会社が人身傷害保険金として第1審原告亡Aに対して支払った2,847万2,161円は、第1審原告亡Aの第1審被告に対する損害賠償請求権が存在しない部分に支払われたものと言わざるを得ず、その支払によって、第1審原告保険会社が、第1審原告亡Aの第1審被告に対する損害賠償請求権を代位取得することはない 。 したがって、第1審原告保険会社の人身傷害保険金の支払に基づく請求は理由がない(※)。

(※)車両保険金の支払に基づく請求については、第1審原告保険会社の請求を認容した。