知財高裁平成28年4月27日判決(判例時報2321号85頁)

被告旧プログラムは、原告プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有することから、これを複製又は翻案したと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原審の各請求の概要
 ア 原審A事件
   被控訴人(1審原告)は、原判決別紙被告プログラム目録一記載のプログラム(以下「被告旧バージョン」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「被告旧接触角計算(液滴法)プログラム」という。)は、控訴人(一審被告)Nが、同X(注:Nの従業員であり、被控訴人の元従業員)の担当の下に、原判決別紙原告プログラム(以下「原告プログラム」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「原告接触角計算(液滴法)プログラム」という。)を複製又は翻案したものであり、控訴人Nが被告旧バージョンを搭載した製品(自動接触角計)を製造、販売することは、被控訴人の原告接触角計算(液滴法)プログラムに対する著作権を侵害する行為であるなどと主張して、控訴人N及び同Xに対し、連帯して、1084万2000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ 原審B事件 略
 ウ 原審C事件 略

(2)原判決の内容
 ア A事件
   原判決は、被告旧接触各計算(液滴法)プログラムは、プログラムの著作物である原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる旨を判示して、被控訴人のA事件請求を、控訴人N及び同Xに対し、損害賠償金として、連帯して190万1258円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した(一部認容)。
 イ B事件 略
 ウ C事件 略

(3)控訴及び附帯控訴
   控訴人らは、原判決中の敗訴部分を不服として、その取消しを求めて本件控訴を提起した。また、被控訴人は、附帯控訴して、原判決中の敗訴部分の取消しを求めた。


 【争点】

(1)原審A事件請求
 ア 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か(争点1)
 イからオまで 略
(2)原審B事件請求 略
(3)原審C事件請求 略
   以下、(1)アについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)認定事実
 ア 原告プログラムの構造等
  a)原告プログラムは、接触角(静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角。液の内側にある角をとる。)を自動で測定するための自動接触角計に搭載するプログラムである。
   被控訴人は、自動接触角計である原判決別紙原告製品目録記載の各製品(以下「原告各製品」という。)を製造、販売しているところ、原告各製品は、試料(固体)ステージ、レンズ、カメラ及び液滴を作るための注射器を備え、専用のソフトウエアである原告プログラムを搭載している。
  b)原告プログラムは、プログラム言語Visual Basic Version 6(VB)を用いて記述された他機種対応型のプログラムである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムは、原告プログラムを構成するプログラムの一つであり、θ/2法、接戦法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右三点の座標を求めて接触角を自動計測する機能を有している。
  c) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2einにない機能も含む)」(以下「原告ツリー図」という。)のとおりである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち、θ/2法、接線法による接触角計算のための主要なプログラムである番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(以下「本件対象部分」という。)のソースコードの内容は、【別添一〇―二】((3)針先検出法)その他の原判決別紙(以下、併せて「ソースコード対照表一」という。)の、各「FAMASソース(元のソースそのまま)」欄に記載のとおりである。
  d)原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、2525行からなり、このうい、本件対象部分のソースコードは、2055行である。
 イ 被告旧バージョンの構造等
  a)被告旧バージョンは、接触角計算機能を有するプログラムである。
   控訴人Nが製造販売する原判決別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)は、液滴法により接触角を自動計測する自動接触角計であるところ、ハード面として、試料ステージ、レンズ、カメラ、液滴を作るための注射器を備えており、被告旧バージョンは、被告製品一ないし三及び六に搭載されていた。
  b)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、被告旧バージョンを構成するプログラムの一つであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有するほか、同プラグラムにない機能も有する。
  c)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構造」(以下「被告旧ツリー図」という。)のとおりであるが(原告ツリー図の番号と同一の番号のものは原告プログラムと同様の機能を有するプログラムである。)、他に(番号10―1)のプログラムがあり、「(1)接触角計算メイン」から「(16)接線法計算」までの16個に番号(10―1)のプログラムを加えた各ソースプログラムの内容は、ソースコード対照表一の各「i2winソース(改変前)」欄に記載のとおりである。
  d)被告旧接触角(液滴法)プログラムのソースコードは、1923行からなり、このうち本件対象部分のソースコードは、1320行である。
 ウ 本件対象部分における共通点
  a)プログラム構造の対比
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、(略)記載のとおりである。 
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様に、
   「(1)接触角メイン」プログラムが、「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(11)端点検出」、「(12)無効領域検出」及び「(13)頂点検出」の各プログラムを「Call」文で呼び出し、
   次いで、θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行い、接線法による接触角計算を行う場合には、「(14)接線法用表面検出」プログラムを「Call」文で呼び出した後に「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行うものとして記載されており、
以上の点において両者は共通である。
  b)ソースコード全体における対比
   本件対象部分について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a) それぞれの番号(1)ないし(16)のプログラムが、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応しており、各プログラムの内のブロック(ソースコード対照表一における「F1」、「I1」など)が機能的にも順番的にも、ほぼ一対一に対応している。
  (b) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの約44%(ソースコード対照表一の黄色部分)は、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと変数・構文ともに一致する。
   また、その約42%(ソースコード対照表一のオレンジ色部分)は、変数、関数又は定数の名称の相違、引数が付加されているなどの引数の数の相違、変数が配列化されているか否かの相違、配列の参照が関数化されているか否かの相違、条件判断に用いられているのが「if」文か「Select Call」文かといった相違があるものの、これらの相違を除くとおおむね一致している。
   さらに、両者のソースコードの記載の順序も、同一又は類似する部分が多い。
  c)ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比
   本件対象部分のうち、ソースコード対照表一の【別添一〇―二】(「(3)針先検出」プログラム)について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a)パラメータ(引数)や変数の名称
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは18個のパラメータ(引数)や変数を利用しているが、そのうち13個の名称が、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるものと同一である。
   また、そのうち2個は、名称が異なっているものの(「meas_para」と「ca_para」、「proc_count」と「draw_count」)、変数の一部が異なっているだけで、類似する(注:以下、「(b) パラメータ(引数)や変数の定義の順序」、「(c) パラメータ(引数)や変数の型」、「(d)構文」、「(e)針先検出ブロックにおける定義のねじれ」及び「(f)行連結文字「「」」の位置」について、同様の検討が行われているが、省略する。)。
 エ 他の表現の選択可能性(選択の幅)
  a)プログラム構造
   原告接触角計算(液滴法)プログラムや被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに見られる処理を行うためのソースコードの記載方法としては、例えば、
  ①「(1)接触角メイン」プログラムが、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを呼び出し、
   次いで、これらがそれぞれ「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」等のプログラムを呼び出すように記載する方法、
  ②接線法による接触角計算を行うプログラムを、θ/2法による接触角計算を行うプログラムのサブプログラムとして記載する方法
  ③「(1)接触角メイン」プログラムを経由せず、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを外部から直接に呼び出すように記載する方法など、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
   また、そもそも液滴法による接触角計算に必要な機能のうちどの機能をサブルーチン化して個別のプログラムとして構成するか、各プログラム中でどのようにブロックを構成するかについても、原告接触角計算(液滴法)プログラムの方法以外にも、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
  b)各プログラムにおけるアルゴリズム
   原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(10」閾値計算」のアルゴリズムは、背景における左右の代表2点における輝度を測定し、その平均値を基準に白黒判定の閾値を決定するというものである。
   閾値計算の方法としては、上記方法以外に、一般的手法として、モード法(画像の輝度ヒストグラムを作成し、二つのピーク位置の間にある最も深い谷の輝度を閾値とする方法)やPタイル法(画像の二重化したい領域が全画像の領域に占める割合をパーセントで指定して二極化する方法)等がある。
   また、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムと同様の方法によるとしても、閾値計算のための代表点の選定方法としては、二点ではなくより多くの点を選定したり、背景における左右の点ではなく、上下や斜めの点を選定するなど、複数の組み合わせが考えられる(注:以下、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」、「(13)頂点検出」及び「(14)接線法用表面検出」の各アルゴリズムについて、同様の検討が行われているが、省略する。)。
  c)ソースコードの記述
   原告接触角計算(液滴法)プログラムで用いられているVBでプログラミングを行う際、変数、定数、関数及び定数などの名称は作成者が事由に決めることができ、名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから、異なる名称を付した場合であっても、電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。
   また、パラメータ(引数)や変数定義の順序も、作成者において自由に決めることができる。
   さらに、同様の処理をサブルーチン化するかどうかを選択することができるほか、変数を配列化したり、変数の参照をパラメータ(引数)や関数としたりすることが可能であるし、繰り返し処理を行う場合のループ文の種類は「For~Next」、「Do~Loop」等複数あり、条件判断を行う場合にも「if」文や「Select Case」文により行うことができ、どのような関数を用いるかを選択することができるなど、同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には、一定の制約の下であるが、ある程度の多様性がある。

(2)複製又は翻案の成否
 ア 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同項1号)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日判決)。
   したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には、複製又は翻案に該当する。
   他方、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないというべきである。
 イ 依拠性
   前記(1)記載のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む原告プログラムは、被控訴人の従業員であった控訴人Xが、主に担当して作成されたものであるから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した控訴人Xにおいて、原告接触角計算(液滴法)プログラムの存在及びその表現内容を認識していたことは明らかである。
   そして、控訴人Xが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む被告旧バージョンを作成するに際し、原告プログラムを参考にしたことを自認していることに加え、前記(1)認定の原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの同一性に照らせば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して作成されたものであると認められる。
 ウ 創作的な表現の同一性
  a)プログラムは、その性質上、表現する記号が制約され、言語体系が厳格であり、また、電子計算機を少しでも経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組み合わせの選択が限定されるため、プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。
   著作権法は、プログラムの具体的表現を保護するものであって、機能やアイデアを保護するものではないところ、プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一なるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。
   他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。
  b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、
  ①前記(1)ウa)(プログラム構造の対比)のとおり、そのプログラム構造の大部分が同一であること
  ②前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(a)のとおり、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内ブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ一対一の対応関係が見られること
   ③前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(b)及びc(ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比)のとおり、これらの構造に基づくソースコードは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分の約86%において一致又は酷似している上に、その記載順序及び組合せ等の点においても、同一又は類似している。
   そして、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、前記(1)エ(他の表現の選択可能性(選択の幅))のとおり、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり、かつ、それがありふれた表現であるということはできないから、作成者の個性が表れており、創作的な表現である。
  c)したがって、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。

(3)結論
   以上によれば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものである。


 

東京高裁令和元年10月30日判決(公刊物未登載)

ISP事業者による自主的な取組としてのサイトブロッキングが、日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることを、付言において判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)との間で、インターネット接続サービス等を受けるために、IP通信網契約及びOCN光withフレッツ契約を締結している者である(以下、上記各契約を合せて「本件契約」という。)。
   第1審被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、インターネット・サービス・プロバイダ事業者(以下「ISP事業者」という。)である。

(2)第1審原告は、平成23年6月25日、第1審被告との間で、本件契約を締結した。本件契約については、IP通信網サービス契約約款共通編(以下「本件約款」という。)が適用され、本件契約の内容となっている。
   本件約款には、次の規定がある。
  1条  当社は、(中略)電気通信事業法(中略)に基づき、このIP通信網サービス契約約款(中略)を定め、これによりIP通信網サービス(中略)を提供します。
  4条  この約款においては、次の用語はそれぞれ次の意味で使用します。
     2   電気通信サービス
     電気通信設備を使用して他人の通信を媒介すること、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること
     3   IP通信網
    主としてデータ通信の用に供することを目的としてインターネットプロトコルにより符号、音響又は影像の伝送交換を行うための電気通信設備(後略)
     4  IP通信網サービス
    IP通信網を使用して行う電気通信サービス(後略)
   また、電気通信事業法には、次の規定がある。
  4条1項 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

(3)知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、平成30年4月13日、「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」と題する文書を公表し、同文書により、被害が甚大で特に悪質な海賊版サイトに関して、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な対応としてISP事業者による自主的な取組としてのサイトブロッキング(閲覧防止措置。以下「ブロッキング」という。)を実施し得る環境を整備するため、「知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議」において、①特に悪質な海賊版サイトへのブロッキングが緊急避難(刑法37条)の要件を満たす場合には、違法性が阻却されるものと考えられること、②ブロッキングの対象として適当と考えられる特に悪質な海賊版サイトに関する考え方について、政府としての決定を行うと発表した。
   また、同会議は、同日、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」と題する文書を公表し、同文書において、「運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできない海賊版サイト」として、「漫画村」、「Anitube」、「Miomio」の3サイト(以下「本件3サイト」という。)を挙げ、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組として、本件3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考えられるとした。

(4)第1審被告は、平成30年4月23日、日本電信電話株式会社らと共に、「インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について」と題する文書を公表し、同文書により、同月13日に開催された知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議において決定された「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」に基づき、サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として、本件3サイトに対するブロッキング(以下「本件ブロッキング」という。)を、準備が整い次第実施すると発表した。

(5)ブロッキングの手法等
 ア 通常、ユーザーがISP事業者に対して特定のウェブサイトへのアクセスを求める場合の過程は、以下のとおりである。
   すなわち、ユーザーは、インターネット・ブラウザ上で、「FQDN」(ツリー型の「DNS」(ドメイン・ネーム・システム)の階層構造において、あるホスト(ウェブサーバ等)を特定するために、当該ホストからDNSの最上位階層(トップレベルドメイン)までの全てのラベルを並べて書いたもの)等を入力する。ISP事業者は、FQDNをIPアドレス(インターネットプロトコルで定められているアドレス)に変換するために、DNSサーバを使用する。そして、ISP事業者のDNSサーバでFQDNからIPアドレスに変換した後に、ユーバーのインターネット・ブラウザから当該FQDNに対応するIPアドレスのウェブサーバに接続することで、ユーザーは、インターネット・ブラウザ上において当該ウェブサーバから入手可能なコンテンツを閲覧することができる。
 イ 本件ブロッキングを実施する場合の手法は、以下のとおりである。
   すなわち、ISP事業者である第1審被告は、事前に自身のDNSサーバの設定を変更し、ユーザーから、FQDNをそれに対応するIPアドレスに変換するリクエストがあった場合に、当該IPアドレスのウェブサーバに接続する代わりに、当該サイトをブロッキングした旨のサイトへ誘導(ブロック)するか、あるいは、当該リクエストに応じる機能を無効にする。これによって、ユーザーがそのインターネット・ブラウザ上でブロッキング対象のコンテンツを閲覧することができないようにする。

(6)第1審原告は、平成30年4月26日、「別紙URL目録(略)記載のURLを宛先とする通信を妨害してはならない」との判決を求めて、本件訴訟を提起した。

(7)原判決(東京地裁平成31年3月14日判決。未公刊判例)は、第1審原告の請求は特定されている(注:第1審被告は,本案前の主張として、「妨害」という用語は多義的であり、請求の趣旨が特定されていないと主張していた。)として却下はしなかったが、差止めの必要性が認められないとして請求を棄却した。
   なお、原審において、第1審原告は、差止めの根拠に関し、以下のとおり主張した。
 ア 第1審被告は、本件約款1条及び4条に基づき、第1審原告に対し、電気通信設備を第1審原告の通信の用に供して第1審原告が行う通信を媒介する債務を負っているところ、本件ブロッキングは一部の通信の媒介を行わないことであって、本件約款1条及び4条に反するものである。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、本件約款1条及び4条に基づき、第1審被告が第1審原告に対して本件契約(本件約款1条及び4条)に基づき負っている債務の履行請求として、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。
 イ 第1審被告は、電気通信事業者として、電気通信業務(電気通信事業法2条6号)を提供しており、第1審被告が提供する電気通信サービスは、当然ながら電気通信事業法に適合する電気通信役務(同法2条3号)として提供されるのであって、同法を遵守した役務が提供されることは、本件契約の債務の本旨となっている。
   ところが、被告が本件ブロッキングを実施しようとすれば、対象通信か否かの確認をするために顧客が行う全通信を知得しなければならず、通信の秘密は侵してはならない旨を定めた電気通信事業法4条1項に反することになり、本件契約の債務の本旨に反することになる。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、被告が原告に対して本件契約(本件約款1条及び4条)に基づき負っている債務の履行請求として、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。
 ウ 通信の秘密は、憲法21条により、憲法上の基本的人権として保護されるべきものであり、民間事業者である第1審被告に対しても、人格権又は人格的利益として保護されるべきものである。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、憲法21条を根拠とする人格権又は人格的利益に基づく妨害予防請求権を有しており、上記人格権又は人格的利益に基づき、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。


【争点】

(1)控訴人(第1審原告)の被控訴人(第1審被告)に対する本件ブロッキングの差止請求が認められるか否か
(2)仮に、差止めの必要性が認められないとして原告の請求が棄却されるとしても、本件訴訟は「権利の伸張若しくは防御に必要であった行為」(民事訴訟法62条)であったとして、訴訟費用については被告の負担とすべきか否か


【裁判所の判断】

   裁判所は、原判決の理由を引用して、控訴人(第1審原告)の請求は理由がないものと判断したが、訴訟費用の負担(争点(2))に関して、以下のとおり付言した。
   「本件ブロッキングを実施した場合には、第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され、このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは、第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案のように、被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳、幸福追求の権利にかかわる問題と異なり、著作権のように、逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は、通信の秘密を制限するには、より慎重な検討が求められるところではある(以下略)。」


 

知財高裁平成30年4月25日判決(判例時報2382号24頁)

リツイート行為が、控訴人の著作者人格権を侵害する行為であると認めたものの、最新のログイン時IPアドレス等の発信者情報該当性を否定した事例(上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)本件は、控訴人が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」(以下「ツイッター」という。)において、被控訴人の著作物である原判決別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)が、
  ①氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ、その後当該アカウントのタイムライン及びリツイート(投稿)にも表示されたこと、
  ②氏名不詳者により無断で画像付きツイート(ツイッターにおける短文投稿のこと)の一部として用いられ、当該氏名不詳者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと、
  ③氏名不詳者らにより無断で上記②のツイートのリツイートがされ、当該氏名不詳者らのアカウントのタイムラインに表示されたこと
により、控訴人の本件写真についての著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)、公衆伝達権。以下、これらを総称して「本件著作権」という。)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権。以下、これらを総称して、「本件著作者人格権」とう。)が侵害されたと主張して、
   「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記①~③のそれぞれについて、別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求めるものである。
   なお、別紙発信者情報目録の内容は、以下のとおりである。
 1 別紙流通情報目録(注:下記PDFファイル参照)記載に係る各流通情報を発信した者(別紙アカウント目録(略)記載の各アカウント保有者)の電子メールアドレス
 2 別紙流通情報目録記載に係る別紙アカウント目録記載の各ツイッターアカウントにログインした際のアイ・ピー・アドレスのうち、本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいもの
 3 上記第2項のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から、被控訴人らの用いる特定電気通信設備に上記第2項のログイン情報が送信された年月日及び時刻
【改訂版】知財高裁H30.4.25判決

(2)原判決(東京地裁平成28年9月15日判決・判例時報2382号41頁)は、被控訴人米国ツイッター社に対する請求を、原判決別紙流通情報目録(略)記載1及び2の各アカウントの別紙原判決別紙発信者情報目録(第1)(略)記載の3の各発信者情報(注:電子メールアドレス)の開示を求める限度で認容し、被控訴人米国ツイッター社に対するその余の請求及び被控訴人ツイッタージャパンに対する請求をいずれも棄却したので、これを不服とする被控訴人が本件控訴を提起した。


 【争点】

(1)被控訴人ツイッタージャパンが別紙発信者情報目録の情報を保有しているか
(2)別紙アカウント目録(略)記載のアカウント1(以下「本件アカウント1」という。その他のアカウントについても、同じ。)及び本件アカウント2につき、ツイート及びタイムラインへの本件写真の表示(流通情報1(6)及び(7)、2(3)及び(4)により控訴人の本件著作権及び本件著作者人格権が侵害されたことが明らかであるか(プロバイダ責任制限法4条1項1号)
   なお、本件プロフィール画像設定行為及びタイムラインへの本件写真の表示(流通情報1(1)~(5)並びに本件ツイート行為2及び本件ツイート2(注:原判決のいうもの)への表示(流通情報2(1)及び(2)が控訴人の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害することは当事者間に争いがない。
(3)本件アカウント3~5につき、本件リツイート行為(流通情報3~5)により控訴人の本件著作権及び本件著作者人格権が侵害されたことが明らかであるか(プロバイダ責任制限法4条1項1号)等
(4)判決確定日時点における最新のログイン時IPアドレス及びこれに対応するタイムスタンプが、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令」(以下「省令」という。)4号の「侵害情報に係るIPアドレス」及び7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するものとして、プロバイダ責任制限法4条1項により開示されるべき「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか
(5)控訴人が発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(プロバイダ責任制限法4条1項2号)を有するか
   以下、本判決の主文を示したのちに、上記争点に関する裁判所の判断の概要を示す。


【主文】

1  原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人米国ツイッター社は、控訴人に対し、
  ①被控訴人米国ツイッター社が運営するツイッターにおいて、別紙流通情報目録1(1)~(4記載のURLにアクセスしたクラインアントコンピュータ・モニター画面に、同目録(1)~(4「表示される画像」記載の各画像が表示されるように設定した本件アカウント1のアカウントの保有者
  ②ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが、別紙流通情報目録1(5記載のURLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに表示される自ら投稿したツイート毎に表示される自らのプロフィール画像として、同目録1(5「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント1のアカウントの保有者
  ③ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録2(1記載のURLにアクセスした際に表示される、本件ツイート1に表示される画像として、別紙流通情報目録2(1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ④ツイッターにおいて、別紙流通情報目録2(2記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータ・モニタ画面に、同目録2(2「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ⑤ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録2(3)及び(4記載のURLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに表示される本件ツイート1に表示される画像として、別紙流通情報目録2(3)及び(4「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ⑥ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録3~5記載の各URLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに、別紙流通情報目録3~5「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント3~5のアカウントの保有者
   の電子メールアドレスを開示せよ。
(2)控訴人の被控訴人米国ツイッター社に対するその余の請求及び被控訴人ツイッタージャパンに対する請求をいずれも棄却する。

2以下 略


【裁判所の判断】

(1)被控訴人ツイッタージャパンが別紙発信者情報目録の情報を保有しているか
   被控訴人ツイッタージャパンが発信者情報を保有しているとは認められないから、控訴人の被控訴人ツイッタージャパンに対する請求はいずれも理由がない。

(2)争点(2)(本件アカウント1及び2における本件写真の表示(流通情報1(6)及び(7)、2(3)及び(4)による控訴人の著作権等侵害の明白性)及び争点(3)(本件リツイート行為(流通情報3~5)による著作権等の侵害の明白性)について
   事案に鑑み、争点(3)について判断し、その後に争点(2)について判断する。
 ア 事実関係等
   本件リツイート行為により本件アカウント3~5のタイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLのインラインリンクが設定されて、同URLに係るサーバーから直接ユーザーのパソコン等の端末に画像ファイルのデータが送信され、ユーザーのパソコン等に本件写真の画像が表示されるものである。
   もっとも、ユーザーのパソコン等の端末に、本件写真の画像が表示させるためには、どのような大きさや配置で、いかなるリンク先からの写真を表示させるか等を指定するためのプログラム(HTMLプログラム、CSSプログラム、JavaScriptプログラム)が送信される必要があること、本件リツイート行為の結果として、そのようなプログラムが、リンク元のウェブページに対応するサーバーからユーザーのパソコン等に送信されること、そのことにより、リンク先の画像とは縦横の大きさが異なった画像や一部がトリミングされた画像が表示されることがあること、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は、流通情報2(2)の画像とは異なるものであること(縦横の大きさが異なるし、トリミングされており、控訴人の氏名も表示されていない)が認められる。
 イ 公衆送信権侵害(著作権法23条1項)について
   控訴人が著作権を保有しているのは、本件写真であるところ、本件写真のデータは、リンク先である流通情報2(2)に係るサーバーにしかないから、送信されている著作物のデータは、流通情報2(2)のデータのみである。そして、公衆送信は、「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」であるから、公衆送信権侵害との関係では、流通情報2(2)のデータのみが「侵害情報」というべきである。
   本件リツイート行為によってユーザーのパソコン等に表示される本件写真の画像は、それらのユーザーの求めに応じて、流通情報2(2)のデータが送信されて表示されているといえるから、自動公衆送信(公衆送信のうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。))に当たる。
   自動公衆送信の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ、情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成23年1月18日判決参照)、本件写真のデータは、流通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると、その自動公衆送信の主体は、流通情報2(2)のURLの開設者であって、本件リツイート者らではないというべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは、行為の対象、方法、行為への関与の内容、程度等の諸般の事情を総合的に考慮して、規範的に解釈すべきであり、カラオケ法理と呼ばれるものも、その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日参照)が、本件において、本件リツイート者を自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。
 ウ 複製権侵害(著作権法21条)について
   前記イのとおり、著作物である本件写真は、流通情報2(2)のデータのみが送信されているから、本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。
 エ 公衆伝達権侵害(著作権法23条2項)について
   著作権法23条2項は、公衆送信された後に公衆送信された著作物を、受信装置を用いて公に伝達する権利を規定しているものである。ここでいう受信装置がクライアントコンピュータであるとすると、その装置を用いて伝達している主体は、そのコンピューターのユーザーであると解される。よって、本件リツイート者らを伝達主体と評価することはできない。
 オ 著作者人格権侵害について
  a)同一性保持権(著作権法20条1項)侵害
   前記アのとおり、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は、流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は、表示するに際して、本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、上記のとおり画像が異なっているものであり、流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えられているものではない。
   しかし、表示される画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができる。そして、上記のとおり、表示するに際して、HTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどを指定されたために、本件アカウントの3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められる。よって、本件リツイート者らによって改変されたもので、同一性保持権が侵害されている。
  b)氏名表示権侵害(著作権法19条1項)について
   本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像には、控訴人の氏名は表示されていない。そして、前記アのとおり、表示するに際して、本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像と異なり、控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められる。よって、控訴人は、本件リツイート者らによって、本件リツイート行為により、著作物の公衆への提供又は提示に際し、著作者名を表示する権利を侵害された。
  c)名誉声望保持権(著作権法113条6号)について
   本件リツイート者らは、控訴人の名誉声望保持権(著作権法113条6号)を侵害したとは認められない(詳細略)。
 カ 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び「発信者」(同法2条4号)について
   前記オa)b)のとおり、本件リツイート行為は、控訴人の著作者人格権を侵害する行為であるところ、前記オa)b)認定の侵害態様に照らすと、この場合には、本件写真の画像データのみならず、HTMLプログラムやCSSプログラム等のデータ等のデータを含めて、プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ、本件リツイート行為は、その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかである。そして、この場合の「発信者」は、本件リツイート者らである
 キ 争点(2)について
   本件アカウント2(3)(4)については、流通情報3~5と同様に、流通情報2(2)の画像が改変され、控訴人の氏名が表示されていないということができるから、著作者人格権の侵害がある。
   しかし、本件アカウント1の流通情報1(6)(7)については、流通情報1(3)の画像と同じものが表示されているから、著作者人格権の侵害があると認めることはできない。これらについて著作権の侵害を認めることができないことは、流通情報3~5と同様である。

(3)争点(4)(最新のログイン時IPアドレス等の発信者情報該当性)について
 ア 控訴人は、最新のログイン時IPアドレスが省令4号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に、同タイムスタンプが同7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当し、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる旨主張する。
 イ この点、プロバイダ責任制限法4条1項は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、・・・当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。・・・)の開示を請求することができる。」と定めているところ、同項は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」について開示を認めるとともに、具体的に開示の対象となる情報は総務省令で定めるとし、省令はこれを受けて、省令4号は「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス・・・及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号」と、同7号は「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とそれぞれ定められているのであるから、省令4号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」には当該侵害情報の発信に関係しないものは含まれず、また、当該侵害情報の発信と無関係なタイムスタンプは同7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に当たらないと解するのが相当である。
   これを本件についてみると、本件アカウント1が開設されたのは平成25年4月1日であり、本件プロフィール画像設定行為がされたのは遅くとも平成27年1月21日であることなどが認められる。なお、控訴人が札幌地方裁判所に本件訴えを提起したのは、平成27年3月25日である。
   そうすると、控訴人が開示を求める最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは、本件において侵害情報が発進された上記各行為と無関係であり、省令4号及び7号のいずれにも当たらない。したがって、別紙発信者情報目録記載2及び3(【事案の概要】(1)参照)についての控訴人の被控訴人米国ツイッター社に対する請求は理由がない。
 ウ これに対し、被控訴人は、ツイッターにおいては、被控訴人らが唯一保有している最新ログイン時IPアドレス及びこれに対するタイムスタンプが開示されなければ、控訴人の権利を侵害した侵害情報発信者を特定する途を絶たれることになる(注:控訴人は、被控訴人らが提供するツイッターサービスにおいては、記事の投稿に係るIPアドレス及びタイムスタンプは取得されず、記事投稿直前のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの情報が取得される。逆に、記事投稿時のタイムスタンプは公開されているが、記事投稿時のIPアドレスが保有されていないため、IPアドレスが不明な投稿時のタイムスタンプは発信者特定において意味をなさないと主張している。)などと主張する。
   しかし、プロバイダ責任制限法4条及び同法の委任による省令は、発信者が有するプライバシーや表現の事由、通信の秘密等の権利・利益と権利を侵害された者の差止め、損害賠償等の被害回復の利益との調整を図るために設けられた規定であって、プロバイダ責任制限法は、その範囲で発信者情報の開示を求める権利を認めているものである。そして、前記イ判示のとおり、プロバイダ責任制限法4条及び省令において開示を求める権利が認められているものの中に、最新ログイン時IPアドレス及びこれに対するタイムスタンプは含まれていない。したがって、控訴人の主張は、立法論にとどまるものというほうかなく、失当である。
   なお、プロフィール写真として無断使用された場合、全ツイート記事へ画像表示されるとしても、侵害行為としては、プロフィール画像として写真の画像ファイルをアップロードしたことで完結しており、その後画像表示が継続されることが当然に侵害行為となるということはできない。

(4)争点(5)(発信者情報の開示を受ける正当な理由の有無)
   以上のとおり、控訴人は本件アカウント1~5に本件写真を表示させた者に対し著作権又は著作者人格権の侵害を理由として権利行使し得るところ、上記の者の特定に資する情報を知る手段が他にあるとは認められないから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。

(5)結論
   控訴人の請求は、被控訴人米国ツイッター社に対して、主文1(1)の電子メールの開示を求める限度で理由がある(原判決変更)。


【追記】

   令和元年10月3日、最高裁判所にて、本件の記録を閲覧し、別紙流通情報目録PDFファイル及び別紙ツイート目録(注:「ツイート1」として、本件アカウント2によるツイートのみが記載されているもの)に関する記載を改訂した。