東京高裁平成31年1月23日判決(判例時報2423号29頁)

アカウントへログインしたユーザーがログアウトするまでの間に記事を投稿しものとまでは認められないとして、ログイン情報の開示を認めなかった事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(1審原告)は、現在、Aという芸名で芸能活動をしている女子高生である。
   被控訴人(1審被告)は、電気通信事業を営む株式会社であり、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)2条3項の特定電気通信役務提供者に当たる。

(2)平成29年8月20日午前1時12分、被告を経由プロバイダとしながら、ツイッター内の別紙アカウント目録(略)記載のアカウント(以下「本件アカウント」という。)へログイン(以下「本件ログイン」という。)をした者がいる。
   控訴人の端末に表示されていた平成29年8月20日頃(控訴人の所有する端末に表示された投稿日時は午後2時21分及び午後5時4分)、本件アカウントへ「整形」という記載等を含む別紙投稿記事目録(略)記載の各記事(以下「本件各記事」という。)を投稿した者がいる。

(3)本件アカウントには、平成29年8月17日以降、本件各記事が投稿される前までに11回のログインがされており、その経過は別紙「ログイン状況」(略)記載のとおりである。本件各記事が投稿される直近のログイン(⑪)が被控訴人を経由したログインである。
   上記11回のログインのうち、7回(④ないし⑩)は被控訴人以外のプロバイダ(NTTドコモ)を経由したログインであり、いずれも本件ログインの前24時間以内(グリニッジ標準時の平成29年8月19日)にされていた。なお、本件各記事の投稿は、控訴人の主張を前提とすると、本件ログインから約13時間ないし16時間が経過した後にされたことになる。
  他方、本件ログインを含むその他の4回(①ないし③、⑪)は、いずれも被控訴人を経由してログインがされていた。

(4)本件各記事が投稿された後、控訴人は、自己のツイッターのアカウントにおいて本件アカウントをブロックしたところ(ブロックしたアカウントからは控訴人をフォローできなくなる)、本件アカウントに「(略)」などとの記載がなされた。
   その後、本件カウントは閉鎖されているが、本件アカウントでは、平成29年10月頃までに、少なくとも196件のツイートがされており、同月頃にされたツイートの内容は、本件各記事との関連性は認められない(甲10。なお、被控訴人は、甲第10号証のアカウントと本件アカウントが別のアカウントである可能性を指摘したが、本件アカウントのユーザー名(ID)は複雑なものであり、別人が使用するとは考えにくいこと、共に2017年8月に登録とされているところ、同一名では別の者が同時に登録できないことなどから、採用されなかった。)。

(5)控訴人(1審原告)は、氏名不詳者によるツイッターへの投稿により、名誉が毀損され、プライバシーを侵害されたことが明らかであると主張し、被控訴人(1審被告)に対し、法4条1項に基づき、本件ログインをした者の氏名又は名称等、別紙発信者情報目録(略)記載の各情報(以下「本件ログイン情報」という。)の開示を求めた。
   原審は、本件ログイン情報は、法4条1項の発信者情報に当たらないと判断して、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。


 【争点】

(1)権利侵害の明白性の有無(争点①)
(2)開示の正当理由の有無(争点②)
(3)被控訴人(1審被告)の開示関係役務提供者性(争点③)
(4)控訴人が開示を求める情報(注:原審のいう「本件ログイン情報」)の発信者情報該当性(争点④)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、原審は、争点④に関し、以下のとおり判示した。
 ア 発信者情報の開示請求権について定めた法4条1項の趣旨は、特定電気通信による権利侵害情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者に、権利侵害情報を流通させた発信者に関する情報の開示請求権を、開示関係役務提供者に対するものとして認め、権利を侵害されたとする者の利益を保護する一方で、その権利行使に際しては、権利侵害の明白性等の厳格な要件の充足を求め、憲法上保障されている発信者の通信の秘密等の利益保護に十分な配慮をする点にあると解される。
   よって、同項に基づく開示請求の対象は、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者の情報に限られると解するのが相当である。この解釈は、同項但書きの「当該権利の侵害に係る発信者情報」という文理にも合致する。
 イ 原告(注:控訴人。以下同じ。)は、ツイッターの場合、ログイン時のIPアドレスしか記録されないから、ログイン情報を発信者情報に含めないと、ツイッターへの投稿で権利を侵害されても、一切、発信者情報の開示を請求し得ないことになり、不当である旨主張する。
   しかし、ログイン情報を発信者情報と解し得る規定は、法4条や同条1項が委任する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令の中に見いだせないのであって、原告が法令に定めのない発信者情報の開示請求権を有すると解することもできない以上、立法による解決を待つしかないというべきである。
   原告の前記主張は、採用することができない。


【裁判所の判断】

(1)争点④(控訴人が開示を求める情報の発信者情報該当性)について
 ア 控訴人は、法が権利を侵害された被害者の救済の目的で制定された経緯、法4条やその委任する省令において発信者情報としてログイン情報を除くという規定がないことに照らせば、発信者情報にはログイン情報も含まれると解すべきである旨主張する。
   これに対し、被控訴人は、4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は、開示請求権者の権利を侵害したとする通信の過程において把握される発信者情報に限定されるべきであり、控訴人が開示を求める情報は、これと異なり本件ログインの際のものであるから、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
   この点、法4条1項の文言上、開示の対象となるのは、「権利の侵害に係る発信者情報」である。
   しかし、例えば、権利の侵害に係る投稿の前に、ログインが一つしかないなど、当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合には、当該ログインに係る情報を発信者情報と解することは妨げられるものではなく、発信者のプライバシー等の利益を考慮し、一定の厳格な要件のもと、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者の救済を図る法の趣旨に照らせば、そのようなログインに係る情報も、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解される。
 イ そこで、本件各記事の投稿について、本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に行ったものであると認められるか否かについて検討する。
  a)控訴人は、本件アカウントの投稿は、一貫して控訴人が整形していることについて言及していることや、まとまった時間に投稿されていることに照らせば、複数人がアカウントを共有して投稿しているというというよりも、個人が投稿していると言える旨主張する。しかし、
  ・本件アカウントの名称は、「〇〇応援隊」という、複数のユーザーにより共有されていることと矛盾しないものであること
  ・本件アカウントには、少なくとも7件の投稿(ツイート)が行われているが、本件各記事が投稿された前後にどのような投稿がされていたかは証拠上明らかでないこと
  ・平成29年8月17日以降、本件アカウントには、本件各記事の投稿がされるまでに11回のログインがあり、そのうち4回は被控訴人を経由するものであるが、7回は被控訴人以外のプロバイダを経由してされていること
に照らせば、本件アカウントが複数のユーザーの共有である可能性もあるところである。
   また、上記いずれのログインについても、対応するログアウトの日時は明らかではなく、ツイッターでは、フォローしているアカウントのツイートを閲覧するなどのため長時間投稿をせずにログイン状態が継続していることも想定されることからすれば、本件ログインより以前になされたログインによって、本件各記事の投稿が行われた可能性も十分にあるということができる。
  b)また、控訴人は、直近にログインした端末から投稿するのが自然である旨主張する。
   しかし、本件ログインが行われたのは、平成29年8月20日午前1時12分であるところ、本件各記事が投稿されたのは、同日午後2時21分、午後5時4分であって、本件ログインの13時間ないし16時間も後にされたものであり、ログインと投稿の連続性を認められるほど時間的な近接性がなく、そもそも上記のとおり長時間ログイン状態を継続していることも想定されるのであるから、必ずしも本件各記事の投稿が本件ログインによりされたことを裏付ける事情になるものではない。
  c)更に、本件各記事の投稿後も、平成29年10月頃までに、本件アカウントには合わせて196件のツイートがされ、投稿には控訴人の容姿の変化に関するものとは無関係なものも含まれていることに照らせば、本件各記事の投稿時点でも、本件アカウントに本件各記事を投稿したユーザーとは別のユーザーが存在した可能性を排斥することはできない。
  d)よって、本件各記事の投稿は、本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に行ったものであるとまで認めることはできない。
  e)なお、本件各記事の投稿をした者以外の者のIPアドレスに係る住所、氏名等の個人情報を開示した場合には、その者の通信の秘密を侵害する結果を招くことに鑑みれば、開示を求める情報が法4条1項に規定する権利の侵害に係る情報に該当するか否かは、慎重な検討が求められると解され、別のユーザーにより投稿された可能性が一定程度存する以上、開示が認められない場合があっても、やむを得ないというべきである。
 ウ 以上によれば、控訴人が開示を求める本件ログインに係る情報が、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求には理由がない。

(2)結論
   控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない(控訴棄却)。


 

東京地裁平成30年3月9日決定(判例タイムズ1466号198頁)

原告が自らのアカウントに登録したギフト券について、実体法上の権利を承継したと認められないことから、アカウントの利用を停止する措置により、原告の損失及び被告の利得が生じたとはいえない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、自然人の男性である。
   アマゾンジャパン合同会社は、電子商取引を目的としてインターネット上で運営されているウェブサイト(以下「本件サイト」という。)で商品等を販売する合同会社であり、被告はAmazonギフト券(以下「本件ギフト券」という。)を発行、販売する株式会社であり、いずれもAmazon Services LCCの関連会社である(以下、Amazon Services LCCと併せて「アマゾン」という。)。

(2)本件サイトの利用者が本件サイトを利用して商品等を購入するには、所定の情報を入力してアカウントを開設する必要がある。アカウントの開設ページには、利用者が本件サイト上でアカウントにログイン(サインイン)することにより、アマゾンの利用規約(以下「本件規約」という。)等に同意したとみなされる旨明示されている。
   本件規約には、「アマゾンは、その裁量の下で予告なく、サービスの拒否、アカウントの停止等を行う権利を留保します」と定めた規定がある。なお、同一の利用者が複数のアカウントを開設することは禁じられていない。

(3)本件ギフト券は、本件サイトでアマゾン等が販売する商品等を購入する際、その購入代金の全部又は一部の支払方法として利用することを予定した、被告が発行する前払式支払手段(資金決済に関する法律3条1項1号)に当たる。アマゾンは、本件ギフト券を本件サイトのほか、アマゾンが承認したウェブサイト、店舗等を介して販売している。
   本件ギフト券には、個別に券面額、ギフト券番号、有効期限が定められている。アマゾンは、サーバー上でギフト券番号に基づき、当該ギフト券の存否・金額等を自動的に確認して、本件ギフト券の使用を管理している。

(4)本件ギフト券の大まかな利用手順は、次のとおりである。
 ア 本件サイトの利用者が、本件サイト又はアマゾンが承認した販売者等から本件ギフト券を購入したり贈られたりすると、被告が送信又は発行するメール又はプラスティックカード等を通じて、本件ギフト券のIDに相当するギフト券番号を入手することができる。利用者は、本件サイト上で自己のアカウントにギフト券番号を入力して、本件ギフト券を登録することができる。
 イ 本件ギフト券を登録すると、その券面額がアカウント残高に加算される。利用者は、本件サイトで商品等を購入する際、アカウント残高の限度で、商品等の購入代金を支払うことが可能になる。利用者は、いったん本件ギフト券を登録すると、登録を取り消したり、登録先のアカウントを変更することはできない。なお、本件ギフト券をアカウントに登録することなく、直接、商品等を購入する際にギフト券番号を入力して当該商品等の購入代金を支払うことも可能である。

(5)本件サイトには、本件ギフト券について、アマゾンと利用者との間に適用することが予定されたAmazonギフト券細則(以下「本件細則」という。)が定められている。本件細則の一部は、要旨次のとおりである。
 ア 本件ギフト券は、本件サイトにおいてのみ使用可能であり、使用には本件サイトのアカウントを開設する必要があり、本件サイトにおいてアマゾン等が販売する商品等の購入に利用できる。
 イ 法律で要求されている範囲を除き、本件ギフト券に金額を補充すること、本件ギフト券を再販売その他対価をもって譲渡すること、換金すること、他のアカウントで使用することはできない(以下、この条項の有償譲渡を制限する部分を「本件有償譲渡禁止条項」という。)。これらの制限に反して取得された本件ギフト券は、アマゾンは、使用を断る場合がある。アカウント残高は譲渡できない。本件ギフト券は、返金及び返品できない。
(中略)
 エ 本件ギフト券が詐欺その他の不正行為により作成され又は入手された場合、アマゾンは、関連する利用者のアカウントを閉鎖し、当該本件ギフト券の使用を保留又は拒否し、他の支払方法を要求することができる。

(6)Gは、インターネット上で本件ギフト券を始めとする各種ギフト券等の買入・販売を行う、アマゾンの承認を受けていない取引サイトである。原告は、平成28年6月14日から同月23日までの間、Gから券面額合計234万円相当の本件ギフト券を購入した。
   原告は、本件サイトにおいて14個のアカウント(以下「本件各アカウント」という。)を開設しており、上記で購入した本件ギフト券を券面額221万7400円の限度で本件各アカウントに登録した。
   アマゾンは、平成28年6月23日、本件各アカウントの利用を停止する措置(以下「本件停止措置」という。)を採った。


【争点】

(1)原告の損失及び被告の利得の有無
(2)被告の利得の法律上の原因の有無
   以下、裁判所の判断の概要について示す


   なお、被告は、争点(2)について、以下のとおり主張した。
   本件停止措置により原告が使用を制限された本件ギフト券は、そもそも原告が有償で取得したものであるから、アマゾンは、本件細則に基づき、その使用を拒絶することができる。
   本件ギフト券の有償譲渡が認められれば、有償譲渡の取引の活発化を招き、本件ギフト券(ギフト券番号)をギフト券権利者から不法に入手した者に換金の場を与え、犯罪行為やマネーロンダリングを助長することになるのであって、本件有償譲渡禁止特約は合理的な規定であり、消費者契約法10条により無効になることはない。


【裁判所の判断】

 (1)原告の損失及び被告の利得の有無
 ア 原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券(ギフト券番号)は、いずれも被告が発行した真正なものであることは当事者間に争いがない。そのこと前提として、以下、本件停止措置により、本件各アカウントに登録された本件ギフト券の使用が困難になり、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるか判断する。
 イ 原告は、本件ギフト券について、民法85条の物又はこれに準ずるものとして、現金のような価値自体に相当すると主張する。
   しかし、本件ギフト券の内容は、購入者が被告に予め対価を支払い、購入者又はその指定する受取人が被告からサーバーで管理されるギフト券番号等の発行を受け、これを本件サイトの自己のアカウントに登録するなどして、当該ギフト券番号に係る券面額の限度で本件サイトにおけるアマゾン等に対する商品等の売買代金債務等の弁済に利用できると認められ、購入者と被告との間の合意に基づき形成される被告に対する実体法上の権利であると解される。そして、その権利の行使(利用)は、インターネット上でギフト券番号という情報を利用して行われるもので、有価証券のように権利を表章する有体物としての媒体が存在しない以上、本件ギフト券自体が民法85条の物又はこれに準ずるものに当たるという解釈には無理があるといわざるを得ず、原告の主張は採用できない。
 ウ ところで、原告は、本件各アカウントに本件ギフト券の登録を済ませている。しかし、本件細則には、本件ギフト券(ギフト券番号)の登録者をその権利者として確定させるという趣旨の条項は見当たらず、かえって、本件細則上、不正に入手された本件ギフト券番号について、アマゾンはその使用を拒絶することが可能であるとされていることなどからすれば、本件ギフト券が本件各アカウントに登録されたことをもって、原告に実体法上の権利又は法的利益(価値)が付与されると認めることも困難である。
 エ したがって、原告は、本件ギフト券を本件各アカウントに登録しており、アカウント残高にその価値が表示されるに至ってはいたが、これは、原告が本件ギフト券に係る権利又は法的利益を有することを示すものではない。よって、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるためには、当該権利等を承継したことが認められる必要がある。
 オ そして、原告は、Gから本件ギフト券に係る権利の譲渡を受けたことが認められる。しかし、Gに本件ギフト券に係る権利を譲渡した譲渡人は特定されておらず、被告から本件ギフト券の発行を受けた購入者又はその指定を受けた受取人等からGに至るまでの取引経過は不明であり、Gに本件ギフト券に係る権利が承継されたと認めるに足りないといわざるを得ない。
 カ したがって、原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券について、実体法上の権利を承継したと認めるに足りず、本件停止措置により、原告の損失及び被告の利得が生じたことをいう原告の主張は理由がないが、本件ギフト券に関する権利関係の特殊性にかんがみ、念のため、争点(2)について判断する。

(2)被告の利得の法律上の原因の有無
   以下、アマゾンによる本件停止措置が本件規約に基づくものとして適法と認められるかについて判断する。
   アマゾンが、平成28年6月頃、マイクロソフト社のオフィス(Home and Business2013)(以下「本件商品」という。)を特価品として購入数量を1人10個までに制限して販売していたところ、原告は、その購入数量制限を免れるために、本件アカウントを利用し、アカウントの閉鎖により本件ギフト券が無効になることを明示した2度の警告をアマゾンから受けたにもかかわらず、10日足らずのうちに3度目の違反に及んだ。よって、原告の購入数量違反は、故意によるものであると認められる。そして、本件各アカウントの利用を継続することが、本件サイトにおけるアマゾンによる特価品の販売を円滑に進めるための妨げになるおそれが高いこと、アマゾンによる警告にも効果が認められなかったことに照らすと、本件各アカウントの閉鎖(永続的停止)もやむを得ないといわざるを得ない。
   したがって、本件停止措置は、本件規約に基づき、アマゾンに認められる本件サイトを運営するための裁量の範囲内の行為として適法であるというべきである。
   そうすると、本件有償譲渡禁止特約違反の被告の主張に関して判断するまでもなく、本件停止措置により生じた被告の利得が法律上の原因を欠くことをいう原告の主張は理由がない。

(3)結論
   原告の被告に対する不当利得返還請求権に基づく請求は理由がない(請求棄却)。


 

東京高裁令和元年10月30日判決(判例集不登載)

ISP事業者による自主的な取組としてのサイトブロッキングが、日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることを、付言において判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)との間で、インターネット接続サービス等を受けるために、IP通信網契約及びOCN光withフレッツ契約を締結している者である(以下、上記各契約を合せて「本件契約」という。)。
   第1審被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、インターネット・サービス・プロバイダ事業者(以下「ISP事業者」という。)である。

(2)第1審原告は、平成23年6月25日、第1審被告との間で、本件契約を締結した。本件契約については、IP通信網サービス契約約款共通編(以下「本件約款」という。)が適用され、本件契約の内容となっている。
   本件約款には、次の規定がある。
  1条  当社は、(中略)電気通信事業法(中略)に基づき、このIP通信網サービス契約約款(中略)を定め、これによりIP通信網サービス(中略)を提供します。
  4条  この約款においては、次の用語はそれぞれ次の意味で使用します。
     2   電気通信サービス
     電気通信設備を使用して他人の通信を媒介すること、その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること
     3   IP通信網
    主としてデータ通信の用に供することを目的としてインターネットプロトコルにより符号、音響又は影像の伝送交換を行うための電気通信設備(後略)
     4  IP通信網サービス
    IP通信網を使用して行う電気通信サービス(後略)
   また、電気通信事業法には、次の規定がある。
  4条1項 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

(3)知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、平成30年4月13日、「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」と題する文書を公表し、同文書により、被害が甚大で特に悪質な海賊版サイトに関して、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な対応としてISP事業者による自主的な取組としてのサイトブロッキング(閲覧防止措置。以下「ブロッキング」という。)を実施し得る環境を整備するため、「知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議」において、①特に悪質な海賊版サイトへのブロッキングが緊急避難(刑法37条)の要件を満たす場合には、違法性が阻却されるものと考えられること、②ブロッキングの対象として適当と考えられる特に悪質な海賊版サイトに関する考え方について、政府としての決定を行うと発表した。
   また、同会議は、同日、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」と題する文書を公表し、同文書において、「運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請すらできない海賊版サイト」として、「漫画村」、「Anitube」、「Miomio」の3サイト(以下「本件3サイト」という。)を挙げ、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組として、本件3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考えられるとした。

(4)第1審被告は、平成30年4月23日、日本電信電話株式会社らと共に、「インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について」と題する文書を公表し、同文書により、同月13日に開催された知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議において決定された「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」に基づき、サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として、本件3サイトに対するブロッキング(以下「本件ブロッキング」という。)を、準備が整い次第実施すると発表した。

(5)ブロッキングの手法等
 ア 通常、ユーザーがISP事業者に対して特定のウェブサイトへのアクセスを求める場合の過程は、以下のとおりである。
   すなわち、ユーザーは、インターネット・ブラウザ上で、「FQDN」(ツリー型の「DNS」(ドメイン・ネーム・システム)の階層構造において、あるホスト(ウェブサーバ等)を特定するために、当該ホストからDNSの最上位階層(トップレベルドメイン)までの全てのラベルを並べて書いたもの)等を入力する。ISP事業者は、FQDNをIPアドレス(インターネットプロトコルで定められているアドレス)に変換するために、DNSサーバを使用する。そして、ISP事業者のDNSサーバでFQDNからIPアドレスに変換した後に、ユーバーのインターネット・ブラウザから当該FQDNに対応するIPアドレスのウェブサーバに接続することで、ユーザーは、インターネット・ブラウザ上において当該ウェブサーバから入手可能なコンテンツを閲覧することができる。
 イ 本件ブロッキングを実施する場合の手法は、以下のとおりである。
   すなわち、ISP事業者である第1審被告は、事前に自身のDNSサーバの設定を変更し、ユーザーから、FQDNをそれに対応するIPアドレスに変換するリクエストがあった場合に、当該IPアドレスのウェブサーバに接続する代わりに、当該サイトをブロッキングした旨のサイトへ誘導(ブロック)するか、あるいは、当該リクエストに応じる機能を無効にする。これによって、ユーザーがそのインターネット・ブラウザ上でブロッキング対象のコンテンツを閲覧することができないようにする。

(6)第1審原告は、平成30年4月26日、「別紙URL目録(略)記載のURLを宛先とする通信を妨害してはならない」との判決を求めて、本件訴訟を提起した。

(7)原判決(東京地裁平成31年3月14日判決。未公刊判例)は、第1審原告の請求は特定されている(注:第1審被告は,本案前の主張として、「妨害」という用語は多義的であり、請求の趣旨が特定されていないと主張していた。)として却下はしなかったが、差止めの必要性が認められないとして請求を棄却した。
   なお、原審において、第1審原告は、差止めの根拠に関し、以下のとおり主張した。
 ア 第1審被告は、本件約款1条及び4条に基づき、第1審原告に対し、電気通信設備を第1審原告の通信の用に供して第1審原告が行う通信を媒介する債務を負っているところ、本件ブロッキングは一部の通信の媒介を行わないことであって、本件約款1条及び4条に反するものである。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、本件約款1条及び4条に基づき、第1審被告が第1審原告に対して本件契約(本件約款1条及び4条)に基づき負っている債務の履行請求として、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。
 イ 第1審被告は、電気通信事業者として、電気通信業務(電気通信事業法2条6号)を提供しており、第1審被告が提供する電気通信サービスは、当然ながら電気通信事業法に適合する電気通信役務(同法2条3号)として提供されるのであって、同法を遵守した役務が提供されることは、本件契約の債務の本旨となっている。
   ところが、被告が本件ブロッキングを実施しようとすれば、対象通信か否かの確認をするために顧客が行う全通信を知得しなければならず、通信の秘密は侵してはならない旨を定めた電気通信事業法4条1項に反することになり、本件契約の債務の本旨に反することになる。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、被告が原告に対して本件契約(本件約款1条及び4条)に基づき負っている債務の履行請求として、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。
 ウ 通信の秘密は、憲法21条により、憲法上の基本的人権として保護されるべきものであり、民間事業者である第1審被告に対しても、人格権又は人格的利益として保護されるべきものである。
   したがって、第1審原告は、第1審被告に対し、憲法21条を根拠とする人格権又は人格的利益に基づく妨害予防請求権を有しており、上記人格権又は人格的利益に基づき、本件ブロッキングの差止めを求めることができる。


【争点】

(1)控訴人(第1審原告)の被控訴人(第1審被告)に対する本件ブロッキングの差止請求が認められるか否か
(2)仮に、差止めの必要性が認められないとして原告の請求が棄却されるとしても、本件訴訟は「権利の伸張若しくは防御に必要であった行為」(民事訴訟法62条)であったとして、訴訟費用については被告の負担とすべきか否か


【裁判所の判断】

   裁判所は、原判決の理由を引用して、控訴人(第1審原告)の請求は理由がないものと判断したが、訴訟費用の負担(争点(2))に関して、以下のとおり付言した。
   「本件ブロッキングを実施した場合には、第1審被告によりユーザーの全通信内容(アクセス先)の検知行為が実行され、このことが日本国憲法21条2項の通信の秘密の侵害に該当する可能性があることは、第1審原告が指摘するとおりである。児童ポルノ事案にように、被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳、幸福追求の権利にかかわる問題と異なり、著作権のように、逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は、通信の秘密を制限するには、より慎重な検討が求められるところではある(以下略)。」