大阪地裁平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2040号29頁)

主治医から症状固定日を予告された後の可動域数値が信用できないことを前提に、原告の症状固定日と左肩関節の可動域制限に関する後遺障害等級を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告B‘保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成24年12月25日午前7時50分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の信号機のない交差点(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の原動機付自転車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、南北に走る道路を北方向に向かって進行する原告車両と東西に走る道路を西方向に向かって進行する被告車両が衝突した。

(3)原告は、事故当日の平成24年12月25日、C病院に搬送され、CTやレントゲン撮影により骨盤骨折及び左上腕骨近位部骨折が指摘され、手術のためにB大学病院に転院して、入院した。原告は、12月26日、骨盤骨折及び左上腕部骨折の手術を受けた。
   原告は、上記手術の後、神経・循環障害なく経過し、平成25年1月4日からリハビリが開始された。原告は、2月5日、C病院に転院して、引き続きリハビリを受けた。B大学病院退院の際のサマリーには、術後経過良好、可動域は120度前後という記載がされた。原告は、3月14日、リハビリ継続のため、D病院に転院した。
   原告は、D病院においては、作業療法士と理学療法士によるリハビリを受けていた。原告は、6月11日、D病院を退院したが、同日付けの診療情報提供書には、経過良好とされ、左肩の現在の可動域は、他動で屈曲、外転ともに170度、自動で屈曲160度、外転150度となっていた。
   原告は、6月12日からE整形外科への通院を開始し、平成27年2月18日まで実日数285日のリハビリを受けた。しかし、同病院でのリハビリは1回当たり10分から15分程度のもので、かつ、D病院と比べてリハビリの種類が少なかった。
   原告は、E整形外科への通院期間中の平成25年7月3日から4日にC病院に入院し、左上腕部の抜釘を受けた。その後、原告は、上腕骨の状態につき、問題があるという説明を受けたことはなかった。

(4)原告が、平成25年6月12日にE整形外科への通院を開始してからの原告の治療に関し、以下の事実が認められる。
  ①E整形外科のEA医師作成に係る平成26年7月30日付け「労災リハビリテーション評価計画書」には、「著名な改善はなく、概ね症状固定と思われる」と記載されている。  
  ②EA医師作成に係る平成26年8月27日付け「意見書と題する書面」には、「左肩の可動域宣言、疼痛、筋力は改善するも、現時点では改善傾向は乏しい」「同年8月末、現時点で概ね症状固定の状態と考える」などと記載されている。
  ③原告は、8月29日、C病院に通院し、CA医師の診察を受けたところ、9月26日を症状固定日とする予定である旨聞いた。
  ④原告は、9月26日、CA医師に対し、9月から週3回、鍼やリハビリに行っており、もう少し続けたいので、11月初旬を症状固定日にしようと思っている旨話した。
  ⑤原告は、11月14日、CA医師から、次回の診察の際に、症状固定の用紙を持参してもらうよう言われ、その際に測定を行うことになった。しかし、原告は、次回の診察に当たる12月19日、CA医師に対し、平成27年1月の第4週に測定し、同年1月末に症状固定したい旨述べた。
  ⑥CA医師作成に係る後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)には、症状固定日は平成27年2月20日と記載されている。

(5)損害保険料率算出機構は、平成27年9月11日、原告の左上腕骨骨折に伴う左肩関節の機能障害につき、本件後遺障害診断書に記載されている数値(他動値で屈曲左80度、右160度、外転左60度、右180度)を採用し、患側(左)の可動域が健側(右)の可動域角度の1/2以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として、後遺障害等級10級10号(併合9級)に該当する旨判断した。

(6)原告は、本件事故により人的及び物的損害を被ったとして、被告に対して、自賠法3条(人的損害に限る)及び民法709条に基づき、損害賠償金等の支払を求めた(甲事件)。
   B‘保険会社は、本件事故により発生した車両損害につき車両保険金を支払ったとして、原告に対し、保険法25条に基づき、支払った保険金等の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
(2)原告の症状固定時期(争点2)
(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
(4)本件事故と相当因果関係のある原告の損害額(争点4)
(5)被告車両の損害額(争点5)
   以下、上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
   原告の走行する道路が優先道路であることや、原告車両が原動機付自転車であるのに対し、被告車両が普通乗用自動車であることに照らせば、被告の過失が原告の過失と比較して圧倒的に大きく、過失割合は原告が10%、被告が90とするのが相当である。

(2)原告の症状固定時期(争点2)
   【事案の概要】(4)①ないし③によると、EA医師及びCA医師は、平成26年夏頃には、原告の症状が固定していると考えていたことが認められる。それにもかかわらず、本件後遺障害診断書には、症状固定日が平成27年2月20日と記載されているが、これは、【事案の概要】(4)④及び⑤のとおり、原告が症状固定の判断を先送りしてほしいという意向を有していたためと考えられる。
   これらの事情に加え、後述のとおり、平成26年8月29日に症状固定を伝えられた後の測定から、左肩関節可動域の数値が一層悪くなり、その推移が不自然であることに照らすと、原告の症状は、平成26年8月末には固定していたと認められる。

(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
 ア 別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)(略。以下同じ。)のとおり、D病院におけるリハビリを経て、同院の最終評価時である平成25年6月10日の時点で、左肩関節の屈曲、外転はともに(自動値)150度(以上)まで改善した。にもかかわらず、その後は、一時的には改善するものの、概ね可動域が縮小していった。そして、最終的には、本件後遺障害診断書のとおり、他動値で屈曲80度、外転60度にまで至っている。このような原告の症状の推移は、一般的な推移とは異なる。
 イ 他方、以下の事情が認められる。
  ①D病院の理学療法士及び作業療法士作成に係る平成25年6月11日付け診療情報提供書には、「現在のROMはpassive肩関節 屈曲170度外転170(中略)となっています。(中略)現時点ではやや外旋位での使用練習を行い上記のような可動域での運動は可能です。しかし、持久性に乏しいこともあり、持続的な空間保持は困難な状態です。」とされていること
  ②EA医師作成に係る平成25年8月27日付けリハビリテーション評価計画書に「現在肩関節可動域に改善がみられるも、リハビリを実施しないと、関節の可動域の制限が著明になる。」、平成26年7月30日付け労災リハビリテーション評価計画書に「リハビリを中断すると、ROM制限が著明になり、運動時の疼痛も増加する。」とされていること
  ③D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、EA医師は、疼痛を伴っており、疼痛域を超えて左肩関節を動かす頻度、左上肢の使用頻度が減ったことが考えられる旨、CA医師は、退院後に継続的な可動域訓練ができなくなり、拘縮が進んだものと思われる旨それぞれ回答していること
  ④E整形外科におけるリハビリは、実日数285日と日数は多かったものの、D病院と比較して、頻度が少なく、1回当たりの時間が短く、リハビリの種類も少なかったことから、D病院で改善した可動域を維持するには不足していたと考えられること
   以上の事情に照らすと、D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、不合理とまでいうことはできない。
 ウ ただし、上記のとおり、原告は、平成26年8月29日に、同年9月26日を症状固定日とする予定である旨CA医師から聞かされているところ、別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)のとおり、同年8月27日に測定された可動域が屈曲120度、外転110度だったのが、その後の測定から数値が一層悪化して、屈曲及び外転とも全て100度以下になっているのでありこれはあまりに不自然な推移である。
   そうすると、症状固定日を予告された後の可動域数値は信用することができず、EA医師が、同年8月27日の時点で原告の左肩の改善傾向は乏しく、同年8月末で概ね症状固定と考えていたことも併せ考慮すると、その直近の測定日である同年8月27日の屈曲120度、外転110度を後遺障害認定の基準とするのが相当である。
 エ よって、左肩関節の可動域制限については、患側(左側)が健側(右側。ただし、平成26年8月27日には、計測されていないので、参考可動域である180度を基準とするのが相当である。)の3/4以下となっているので、後遺障害等級12級6「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害と残すもの」に該当する。
 オ そして、骨盤骨折による骨盤骨の変形につき、骨折後の著しい変形癒合が認められ、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として、後遺障害等級12号5号に、骨盤骨折に伴う右股関節の機能障害につき、その可動域が健側(左股関節)の可動域の可動域角度の3/4以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として、後遺障害等級12級7号にそれぞれ該当する。
   よって、原告の後遺障害等級は、併合11級に該当する。

(4)結論
   甲事件:請求額21,630,710円、認容額6,065,715円(一部認容)
   乙事件:請求額175,000円、認容額17,500円(一部認容)


 

東京高裁平成30年6月18日判決(判例時報2416号19頁)

歯科医院に対する批判的意見等を述べた「Googleマップ」への書込みが、受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとはいえない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

   以下、【事案の概要】及び【原審の判断】において、「抗告人」を「債権者」、「被抗告人」を「債務者」と称する。

(1)債権者は、〇〇において「〇〇」という名称の歯科医院(以下「本件クリニック」という。)を経営する医療法人である。
   債務者は「Googleマップ」という地図情報サービスの地図上の店舗・施設等について感想・評価等の口コミを投稿するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を管理・運営する法人である。

(2)氏名不詳者は、本件サイトに原決定別紙投稿目録記載の第1及び第2の各記事(以下、順に「本件記事1」「本件記事2」といい、これらを総称して「本件各記事」という。)を投稿した。

(3)債権者は、債務者に対し、本件各記事によって人格権(名誉権)が侵害されたとして、人格権に基づく妨害賠償請求権として、本件各記事を仮に削除するよう求めた。


【原審の判断】

   原審における主な争点は、下記のとおりであった。
  a)債権者の社会的評価が低下したか否か
  b)本件各記事の摘示事実の真実性
   以下、上記の各争点を含めて、原審の判断の概要を示す。


(1)被保全債権の存否
   本件各記事の投稿が債権者の名誉を毀損し、その社会的評価を低下させたといるかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁エ昭和31年7月20日判決、平成24年3月23日判決参照)。
   もっとも、他人の社会的評価を低下させる記事の投稿であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実の重要な部分が真実であるときには、上記行為は違法性が阻却されるというべきである(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁昭和58年10月20日判決)。
   また、摘示事実を前提とする意見ないし論評の表明としてされた記事の投稿についても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分が真実であり、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでないときは、その違法性が阻却されるものというべきである(最高裁平成9年9月9日)。
   そして、本件債務者のようなウェブサイトの管理・運営者は、通常、表現内容の真実性等の事実関係に関する資料を保有していないことや、手続的保障が十分とはいえない仮処分における表現行為の抑制であることなどから、請求者において違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないこと(上記各要件のいずれかの不存在)を疎明することが必要であると解される。
  ①本件記事1について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、本件記事1を全体としてみれば、同記事は、本件クリニックで治療を受けた投稿者が、担当医師の当日の治療及び翌日以降の対応に不満をもって、批判的意見等を記載したものに過ぎず、債権者が主張するように、患者を初心者の技術向上の踏み台や実験台にしていると捉えられ、医療事故被害を示唆するものではるとまで読むことはできない。
   これらに加え、本件サイトの本件クリニックに関するページは、主として、治療を受けるべき歯科医院を探している読者が、歯科医院を選択するための判断材料を得る目的で閲覧しているものと考えられるところ、そのような一般の閲覧者は、本件クリニックを評価する他の投稿記事をも閲覧しているのが通常であり、それらの投稿記事には本件クリニックの医師による適切な治療に対する満足や、医師の丁寧な対応を評価する内容のものもあれば、不満や批評を述べるものもあること、さらには、本件サイトのような、いわゆる口コミサイトが、消費者にとって双方向性の高いコミュニケーション手段となり、また、個人と事業者との間の情報の非対称性を弱める機能を有していること等を併せて考慮すると、上記程度の社会的評価の低下は受忍限度の範囲内であるというべきである。
  b)摘示事実の真実性 略
  c)公共性、公益目的当 略
  d)小括
   以上によれば、本件記事1が受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとみることはできず、また、違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないとはいえないから、本件記事1について被保全権利は認められない。
  ②本件記事2について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件記事2は、本件クリニックの費用や品質等に対する社会的評価を低下させるものということができる。
   この点について、債務者は、相場より高いという摘示自体は直ちに社会的評価を低下させるものではない旨主張する。けれども、歯科医院の治療費、特に保険適用外の治療費は高額となることがあるから、一般人にとっての関心事であり、その治療費が高いにも関わらず治療技術が低いということは、社会的評価を低下させるものといえるから、この点に関する債務者の主張は採用できない。
  b)摘示事実の真実性
   疎明資料(略)によれば、本件クリニックの治療費が他に比較して特段高額であるとは認められず、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   また、疎明資料(略)及び審尋の全趣旨によれば、本件クリニックの開設以来の全診療録を調べた結果、〇〇とクレームを申し出た患者はいないことが一応認められ、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   よって、本件記事2に摘示された事実は、その重要な部分において真実でないといえるから、この点について違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないものと一応認められる。
  c)小括
   以上によれば、本件記事2は債権者の社会的評価を低下させ、また、同記事を本件サイトに投稿する行為には、実質的違法性があるといえるから、同記事については被保全権利が認められる。

(2)保全の必要性の有無 
   本件記事2がインターネット上で閲覧可能な状態にある以上、債権者において、あえて長期間放置したなどの特段の事情がない限り、債権者には著しい損害又は急迫の危険があるものということができるところ、上記各記事について、そのような特段の事情は見当たらない。
(3)結論
   以上によれば、債権者の本件申立ては、①本件記事2を仮に削除する限度で理由があるから、30万円の担保を立てることを条件として認容するが、②本件記事1を仮に削除するよう求める申立ては理由がないから却下する。
   債権者は、上記②を不服として抗告した。


【裁判所の判断】

(1)当裁判所も、本件記事1は受忍限度を超えて抗告人の社会的評価を低下させるものではなく、抗告人の人格権(名誉権)を侵害するものではないと解する。
   そうすると、抗告人の本件記事1の仮の削除請求は却下されるべきものであるから、本件抗告は理由がないことに帰する。

(2)なお、念のために判断するに、本件記事1には違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないことの疎明もないというべきである。

(3)歯科医院の治療については、患者ごとのオーダーメイドであって、その出来具合についての巧拙の評価や満足度、費用の額についての納得度は、患者によって千差万別である。不満を述べる感想についても、歯科医院側はある程度受忍していくことが社会的に求められているところである。
   また、ウェブサイトへの書込みは、国民の表現の自由や知る権利の保障に関係する事柄であるから、社会的評価の低下や違法性阻却事由を窺わせる事情の不存在についての疎明があったと判断するには、これらの基本的人権の保障との兼ね合いにも配慮して慎重でなければならないというべきである。殊に、書込みをした者が当事者とならない本件においては、抗告人の疎明に対して被抗告人が実質的に反証していくことは、事実上不可能に近いことにも配慮し、非常に慎重でなければならないというべきである。

(4)結論
   本件抗告は理由がないから棄却する。


 

東京高裁平成30年4月25日判決(判例時報2416号34頁)

車両保険金は、まず物的損害の全体のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される旨判示した事例(一部変更)


【事案の概要】

  以下、【事案の概要】においては、「上告人」を「控訴人」と、「被上告人」を「被控訴人」と称する。

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平27年4月2日午前10時頃
 イ 発生場所 東京都目黒区〇〇先路上
   首都高速中央環状線内回りの本線(大井方面行き)から高速3号渋谷線(東名方面行き)に接続する車線が分かれる分岐点(ゼブラゾーンが始まる位置。以下「本件分岐点」という。)付近
 ウ 控訴人車 控訴人X1が運転し所有する普通乗用自動車
 エ 被控訴人車 被控訴人会社が所有し被控訴人Y1が運転する中型貨物自動車
 オ 事故態様 控訴人車が首都高速中央環状線内回りの本線2車線中の第2車線(以下、単に「本線」という。)から高速3号渋谷線に接続する分岐車線(第1審判決別紙図面の斜線部分。以下、単に「分岐車線」という。)に進路変更したところ、控訴人車の後方で本線から分岐車線に進路変更した被控訴人車の左前角付近と、控訴人車の右後角付近が接触した。

(2)控訴人X2は、控訴人X1との間で、被保険者を控訴人X1、被保険自動車を控訴人車、保険金額を30万円とする自動車保険契約を締結しており、平成28年11月4日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用として28万9200円を支払った。

(3)被控訴人Y2は、被控訴人会社との間で、被保険者を被控訴人会社、被保険自動車を被控訴人車とする自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結しており、平成27年7月1日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用77万8850円(免責分10万円を控除した額)を支払った。
   なお、本件契約に適用される普通保険約款中の代位に係る規定において、被上告人Y3に移転せずに被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、被上告人Y3に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨が定められている。

(4)原審の争点は、以下のとおりであった。
 ア 本件事故の態様と双方の過失の有無及び割合(争点1)
 イ 控訴人X1の損害(争点2)
 ウ 被控訴人会社の損害(争点3)
   原審は、争点1につき、双方の過失割合を、控訴人側7割、被控訴人側3割と判断した。
   また、原審は、争点2につき、控訴人X1の損害(車両損)を41万0550円であり、これに7割の過失相殺(△28万7385円)をすると12万3165円となると判示した上で、前記(2)のとおり、控訴人X2が車両保険金として28万9200円を支払済みであるが、そのうち28万7385円は控訴人X1の損害のうち過失相殺分の填補に充てられるから、控訴人X1が請求できる額は、41万0550円であり(過失相殺分28万7385円を含む。)から28万9200円を控除した12万1350円となり、控訴人X2の代位取得額は12万3165円から12万1350円を控除した1815円となると判示した(以上については、原審判決が確定した。)。
   他方、原審は、争点3につき、被控訴人会社の損害を、①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円であり、これに3割の過失相殺をすると、69万7787円(修理費用61万5195円、休業損害8万2592円)となると判示した上で、前記(3)のとおり、被控訴人Y3が車両保険金として上記修理費用から免責分10万円を控除した77万8850円を支払済みであるから、被控訴人会社が請求できる額は、修理費用のうち損害の填補がされていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2592円の合計18万2592円となり、被控訴人Y3は、過失相殺後の修理費用61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の限度で、被控訴人会社の控訴人X1に対する損害賠償請求権を代位取得したことになると判示した。


【争点】

   被上告人Y3による損害賠償請求権の代位取得の範囲  
   以下、上記の争点(以下「本件争点」という。)に関する、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、原判決の争点3に関し、被上告人(被控訴人)会社が請求できる額については、争われていない。


【裁判所の判断】

1 本件争点に関する原審の判断は、是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

(1)交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが、当事者の意思に合致し、被害者の救済の見地からも相当である。
よって、車両損害保険条項に基づいて支払われた車両損害保険金は、当該交通事故に係る物的損害の全体を填補するものと解するのが相当である。

(2)本件事故においては、被上告人車に係る①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円が、被上告人車に関して被害者である被上告人会社が被った物的損害である。
   よって、被上告人Y3が支払った保険金は、これらの物的損害の全体を填補するものであるというべきである。

(3)そして、本件保険契約の被保険者である被上告人会社に本件事故の発生について過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき、被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)が保険金請求権者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が、裁判基準損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で、保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である(最高裁平成24年2月20日判決、同平成24年5月29日判決参照)。

(4)そうすると、過失相殺がされる場合には、被害者に支払われた保険金は、まず損害額のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される(いわゆる裁判基準差額説)。  
   本件において、被上告人Y3が支払った車両保険金77万8850円は、被保険者である被上告人会社が被った過失相殺前の損害額99万6838円の、被上告人会社側の過失割合である3割に相当する29万9051円(99万6838円×0.3)にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円(77万8850円―29万9051円)が、加害者の過失割合に相当する部分に充当される。
   結局、被上告人Y3は、被上告人会社に代位して、上告人X1に対し、47万9799円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができるものである。

(5)したがって、原判決は、被上告人Y3が上告人X1に対して請求することができる金額を過大に算定しているから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 2 結論
   以上のとおり、上告人X1の論旨には理由がある。そこで、以上に説示したところに従い、原判決中X1及び被上告人Y3に関する部分を、前記1(4)のとおり変更する(一部変更。なお、原判決中X1及び被上告人会社に関する部分は、変更されていない。)。