横浜地裁平成31年3月19日判決(労働判例1219号26頁)

従前と異なる業務(部品仕訳作業)を行わせる指示が権利濫用に当たらず、これに従わなかった原告に対する解雇が有効と判断された事例(控訴後控訴棄却)


【事案の概要】

(1)被告は、企業内教育研修に関する企画・立案及びコンサルティング等を目的とする株式会社である。
   原告は、昭和60年4月に株式会社T(以下「T」という。)に入社し、遅くとも平成18年1月までに、被告に転籍した。原告は、平成23年4月、A研修部のBスクール(以下「Bスクール」という。)担当に配属された。原告は、Bスクールに配属後、①年間スケジュール作成業務、②年間スケジュールに基づき、日々の訓練や行事の運営をサポートする業務及び③一般教養関係の科目についての講師業務を行っていた。

(2)Cは、平成24年、Bスクールに配属され、平成26年4月から、Bスクールの校長(グループ長)に就任した。CがBスクールの校長に就任した後、原告は、Cとの折り合いが良くないことから、同年7月以降、講師控え室において執務をするようになり、同年12月までの約5か月間、講師控え室での執務を継続した。

(3)Bスクールは、Tグループにおける技術職要員の確保等を目的に、T及びグループ各社(以下「派遣元」という。)から、各社に技術職として入社する新規高卒者等の派遣を受け、毎年4月から翌年3月まで、派遣された訓練生に対し、教育訓練を行っている。
   Bスクールは、半期に一度、派遣元に対する報告会(以下「派遣元報告会」という。)を実施していた。派遣元報告会には、訓練生、派遣元窓口担当者、訓練生の上長、Bスクールグループ長が参加した。

(4)平成26年度前期派遣元報告会は、平成26年10月7日、開催された。原告は、同報告会の事前資料の作成、会場準備、当日の司会進行等を行った。
   原告は、同月14日、派遣元関係者等に対し、Bスクール前期報告会議事録についての連絡と題するメールを送信した(以下「本件メール」という。)。本件メールには、前期報告会について、開催前は担当するように言われたのに、180度変わり、当方は担当ではないのに余計な事をしたと言われたから、議事録を含め、今後一切対応しないなどとの記載があった。
   Cは、翌同月15日、被告の管理部の依頼に基づき、原告に対し、許可なく本件メールを送信したことに関し反省文を作成するよう指示した。しかし、原告は、形式的には反省文を作成したものの、その内容はC及び被告組織を批判するものであった。そこで、Cは、同月17日、反省文の再提出を促したものの、原告は、Cらを批判し続けたため、それ以降、Cが反省文の再提出を求め、原告が同様の反省文を提出するということの繰り返しとなった。

(5)被告は、同月15日以降、原告を従前の業務から外し、原告に対し、反省文の作成を指示しており、それ以外の業務は指示していなかった。
   被告の管理部は、被告代表者とも協議の上、原告に、Bスクールの電子機器科の実技実習の準備作業を行わせることとし、Cは、この方針に基づき、同年11月中旬、原告に対し、マーシャリング作業(部品仕訳作業)を指示した(以下「本件業務指示」という。)。
   マーシャリング作業は、予定されている実習に用いる部品類を揃えて袋詰めにするという授業の準備作業であり、被告において従前は、専任の担当者は置かれておらず、Bスクールの各専攻科の授業を担当する各指導員が、授業中に指導の合間を縫い又は残業する等して同作業を行っていた。
   しかし、原告は、本件業務指示に従わず、マーシャリング作業を行わなかった。

(6)被告は、平成27年4月21日付けで、原告に対し、①平成26年11月18日から本件業務指示を無視し続けていること、②同年10月14日、Bスクール派遣元関係者に等に業務上不適切なメールを送信し関係先に無用な混乱を招いたこと及び③同年7月17日以降5か月以上の長期に亘って講師控え室での執務を正当な理由なく継続したことは、就業規則100条3項2号に該当するとして、譴責の懲戒処分をした(以下「本件譴責処分」という。)。
   被告は、平成27年8月7日付で、原告に対し、本件譴責処分後も、本件業務指示に従わず、上長の指揮命令に従わない状態を継続していることは、就業規則101条5項2号及び3号に該当するとして、出勤停止1日の懲戒処分をした(以下「本件出勤停止処分」という。)。
   被告は、同年11月30日付けで、原告に対し、本件出勤停止処分後も本件業務指示に従わず、上長の指示命令に従わない状態を継続していることは、会社業務の運営に著しく協力しない行為であり、就業規則27条1項3号及び6号に該当するとして、同日付で解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。


【争点】

(1)本件業務指示が権利濫用に当たるか(争点1)
(2)本件解雇の有効性(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。 


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件業務指示が権利濫用に当たるか)について
 ア 本件就業規則4条は、社員は、上長の指示命令に従わなければならないと定めているから、原告は、原則として、本件業務指示に従う義務がある。しかしながら、本件業務指示が、懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的であるなど、業務命令権の濫用に当たる場合には、無効であると解される(労働契約法3条5項参照)。
 イ 以下、本件業務指示が、懲罰目的またはいじめ・嫌がらせ目的であったかについて、検討する。
  a)業務指示の必要性
   原告が、Bスクールの顧客にあたる派遣元に対し、原告のBスクールに対する不満を暴露し、Bスクールを批判する内容の本件メールを送信して、Bスクールの信用を揺るがす重大行為を行った上に、本件メール送信後、反省文の作成を指示されたにもかかわらず、引き続き、Cらを批判し続け、真に反省した態度を示していなかったことからすれば、被告が、原告を従前の業務に戻した場合、本件メールの送信と同様の行為が再発し、Bスクールの信用を揺るがすおそれがあるため、従前の業務に戻すことはできないと判断したこともやむを得ない。
   その上、マーシャリング作業は、実技実習の準備作業として不可欠のものであり、従前から授業を担当する各作業員が行っていたものであるから、マーシャリング作業自体の業務上の必要性も認められる。
   したがって、本件業務指示は、被告が本件メール送信後も真に反省する態度を見せない原告に対し、従前の業務の代わりに、必要な業務を指示したものと評価できるのであるから、本件業務指示の必要性は認められる。
  b)手段の相当性
   マーシャリング作業自体は、従前から、各指導員が行っている作業であって、一般的に、作業者が精神的、身体的苦痛を感じるものとは解されないことからすれば、本件業務指示は、手段としても、社会通念上相当であるといえる。
  c)小括
   以上からすれば、本件業務指示は、業務上の必要性もあり、手段も相当であるから、懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的であると推認することはできず、その他本件全証拠によっても、業務命令権の濫用と認めるに足りる事情もないから、本件業務指示は有効である。

(2)争点2(本件解雇の有効性)について
 ア 上記(1)のとおり、本件業務指示は有効であるにもかかわらず、原告は、本件業務指示に従わず、マーシャリング作業を行わなかった。これは、原告が会社業務の運営を妨げ又は著しく協力しないといえるとともに、正当な理由なく、約1年に渡って上長の指揮命令である本件業務指示に従わず、その情状が特に重いといえるから、これは、本件就業規則27条1項3号及び6号、101条5項2号、3号、100条3項2号に該当すると認められる。
 イ これに対し、原告は、本件業務指示が懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的であると疑っていたのであるから、本件業務指示に従わなかったことについて、やむを得ない事情があると主張する。
   しかしながら、反省文の作成指示が継続されたのも、原告がCらの批判を継続し、反省の態度を示していなかったため、反省を促す必要があったからであることは、通常人であれば容易に理解することができる上に、E部長(注:同人は、A研修部の平成26年当時の部長であり、同年12月12日、原告と面談した。)及びF部長(注:同人は、E部長の後任であり、平成27年8月19日、原告と面談した。)も、原告に対し、従前の業務を行わせることができず、信頼関係を回復するためにマーシャリング作業が必要であることを説明していたことからすれば、仮に、原告が、本件業務指示が懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的であると疑っていたとしても、本件業務指示に従わなかったことについて、やむを得ない事情があったとは認められず、上記認定を左右しない。
 ウ 原告は、①原告がマーシャリング作業を行わなかったことにより、大きな支障は生じていないから、本件業務指示に従わないことは、原告を解雇するための客観的合理的理由とならない、②同種行為を行わないと確約しているから、改善の余地があり、労働契約の継続が困難な状態とはいえず、原告を解雇するための客観的合理的理由に欠ける、③被告が、原告を従前の業務に復帰させ、又は、他の部署に異動させることにより解雇を回避できたと主張するが、原告の各主張は、いずれも採用できない。
   したがって、本件解雇は、客観的合理的理由を欠くとは認められない。
 エ そして、原告は、法廷で本件メールの送信行為について反省の弁を述べていること、本件譴責処分を受けるまで、約30年間、T及び被告において、懲戒処分歴なく勤務を継続してきたこと、原告が本件解雇当時、51歳で再就職が困難な年齢であることを考慮しても、原告が、懲戒処分を2回受けても、有効な本件業務指示に従わないという強固な姿勢を示しており、企業秩序を著しく乱していることからすれば、本件解雇は、社会通念上相当ではないとも認められない。

 (3)結論
   本件訴えのうち本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する給与及び賞与に係る部分は、不適法であるから、これを却下し、原告のその余の請求は、いずれも理由がない(請求棄却)。
   なお、控訴審である東京高裁令和元年10月2日判決・労働判例1219号21頁は、控訴人(第1審原告)の控訴を棄却した。


 

知財高裁令和2年2月20日判決(コピライト709号57頁)

パブリシティ権の形成における一審被告の寄与等を考慮して、その侵害によって生じた損害額(使用料相当額)についての原審の判断を是認した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

   原審(東京地裁平成31年2月8日判決)の【事案の概要】のとおりである。
   なお、一審原告会社及び一審被告は、それぞれ敗訴部分を不服として控訴したが、一審原告Aは、敗訴部分につき控訴しなかった。


【争点】

   原審と同様、争点は多岐に渡るので、以下の争点(ただし、下記(2)については、パブリシティ権侵害に基づく利用料相当損害に限る。)に絞って、これらについての裁判所の判断の概要を示す。
(1)パブリシティ権侵害の有無
(2)一審原告らの損害額


【裁判所の判断】

(1)基本的な観点
 ア 両当事者は、平成9年から平成25年までの間、本件ブランドを用いた日本での婦人服販売事業のための契約関係にあり、本件ブランドの知名度の向上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告Aの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は、上記事業における本件ブランドの宣伝公告の目的のために、一審原告側から提供された素材である。そして、その提供に当たっては、当時の両当事者は協力関係にあったという背景から、使用の目的、態様及び期間等について、文書等による明確な取極めはされていなかった。
 イ 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契約関係が解消された時点において、これらの素材は、被告ウェブサイト上及び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは、一審原告側においても了知していた可能性が高いし、仮に了知していなかったとしても、被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りうる状態にあった。
 ウ 契約関係の解消後も、一審被告は、日本国内のJS商標を既に譲り受けていた以上、本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様で継続することが可能であり、そのことは一審原告側も了知していた。そうすると、契約関係の解消後も、被告各表示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを、一審被告は予定しており、一審原告側も、これを予想していたか少なくとも予想し得たといえる。
   また、JS商標は一審原告Aの氏名と同一であるから、JS商標及び各商標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一審被告の事業活動は、その需要者層に、一審原告A個人がこれに関与しているとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このような状況は、契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
 エ このように、本件事案は、長期間にわたり契約関係にあった当事者が、必ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり、それが原因となってパブリシティ権侵害行為、著作権侵害王位及び不正競争行為(いずれも法的性質としては不法行為)として損害賠償等が請求されている、というものである。そうすると、権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても、契約関係にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり、契約関係にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。

(2)パブリシティ権侵害の有無
 ア 一審原告Aのパブリシティ権の侵害の有無
   一審原告Aにパブリシティ権が成立し、かつ、一審被告が、これを利用する目的を有していたと認められることは原判決が説示するとおりである。
 イ 一審原告らによる同意、承諾の有無
  a)本件解除前について
   一審原告らによる同意、承諾が認められることは原判決を引用して説示したとおりである。
  b)本件解除後について
   一審原告らによる同意、承諾が認められないことは原判決を引用して説示したとおりである。

(3)一審原告らの損害額
   原判決の認定した100万円という損害額につき一審原告会社は高額に過ぎる旨主張し、一審被告は低額に過ぎる旨主張する。
   そこで検討するに、本件においては、以下のような事情を考慮する必要があると考えられる。すなわち、
 ア 本件証拠中、例えば甲28には、一審原告Aについて、「世界12ヶ国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一方で、「日本は世界最大のマーケット」という記載もある。
   そして、後掲各証拠(略)によれば、「世界12ヶ国に進出」というその実態は、一審原告Aの生地である米国ニューヨーク市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有しているほかは、米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり、ネットショップに商品が掲載されているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイトには、店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが、その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多い上、取扱いがある場合でもデパートの店内に本件ブランドを冠した売場を確保してはない。そして、一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えていること等を示す証拠はない。
   なお、一審原告Aの日本国外での活動に関する証拠(略)は、いずれもウェブサイトへの掲載であるところ、ウェブサイトは紙媒体と異なり、掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。また、一審原告Aが出展したファッションショーは、いわば「地元」であるニューヨーク市でのものである上に、出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者本人尋問)。
 イ 一審原告Aの世界的な名声については上記アのとおり一定の留保を付けざるを得ないのに比して、日本国内での名声(特に被告商品の需要者層におけるもの)は、それなりに高いと認められる。
   もっとも、本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Aが日本の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し、それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビジネスに深く関わってきたことからすれば、日本における一審原告Aの名声には、各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多分にある。一審原告Aの日本国内での名声を示すものとして一審原告側から提出されている証拠(略)も、各ライセンシーによる上記と同様のマーケティングに影響されたものである可能がある(例えば、外見上は出版社が編集したムックである甲8にも、Editorial cooperatorとして、複数名の一審被告の関係者が関与している。)。
   そして、各ライセンシーがそのマーケティングに当たり、一貫して、一審原告Aを被告表示2~4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物として需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明らかであるから、一審原告Aが「世界的に有名な」ファッションデザイナーであるとの名声が日本において形成されるについては、各ライセンシーの寄与、中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きかったと認められる。
 ウ 上記ア及びイの事情によれば、一審原告Aの肖像等が顧客誘引力を有し同人にはパブリシティ権が認められるとしても、それらは、いわゆる超一流のファッションデザイナーのものと同列ではないし、パブリシティ権の形成に当たって一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきである。
 エ 一審原告らは、一審原告Aのパブリシティ権の価値が高く、その侵害による損害が大きい旨の主張を裏付けるため、過去の裁判例及び文献の記載を多数援用する。しかしながら、過去においてパブリシティ権の価値が検討された事案の多くは、きわめて知名度が高い権利者(その多くは、知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人、運動選手等である。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を、その知名度の形成に寄与してない他者が利用した事案であるから、これらの事案を通じて形成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判所の判断は、本件にそのまま適用できるものではない。もっとも、一審原告Aの我が国における認知度は、それなりに高いことからすると、その形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても、パブリシティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当ではないというべきである。
   上記ア~エで検討した点を踏まえると、一審原告Aのパブリシティ権侵害によって生じた使用料相当損害の額は、原判決が説示するとおり、100万円と評価するのが相当であって、これに反する一審原告会社及び一審被告の主張は、いずれも採用することができない。


 

東京地裁平成31年2月8日判決(判例秘書【L07430173】)

パブリシティ権侵害による損害額について、基本契約の終了以前の事情、同解除後の原告の肖像写真等の使用期間等を斟酌して相当な額を認定した事例(控訴後控訴棄却)


【事案の概要】

(1)原告Jは、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身のファッションデザイナーである。
   原告会社は、原告Jの肖像等の商業的利用につき、独占的利用権及び許諾権を有している。なお、原告会社の代表者であるAは、原告Jの配偶者である。
   被告は、衣料品、服飾雑貨の企画、製造加工、販売及び輸入等を業とする株式会社である。

(2)被告は、平成8年頃、原告ら又は原告会社との間でライセンス契約を締結し、平成9年3月、日本におけるJブランド(以下「本件ブランド」という。)の1号店を開店し、同ブランドは、1990代後半になって、その知名度が急速に高まった。
   原告会社と被告は、平成17年(2005年)9月2日、契約期間を同年10月18日から平成24年(2005年)10月17日までとするサービス契約を締結した。同契約において、被告は、広告制作費として、原告会社に対し、各契約年度の10月16日に年15万ドル(最後の2契約年度は17万ドル)を支払うことが定められた。
   原告会社及び「S Aファミリー トラスト」(注:原告らから「J・S」関連商標の管理委託を受けている会社)と被告は、平成19年(2007年)4月13日、韓国等を除くアジア地域における、原告Jに関連する全ての商標権(別紙商標権目録記載の各商標を含む。)や、各商標に関連する全てのグッドウィル等を、4500万ドルの対価で無期限に譲渡する旨の契約(以下「商標権譲渡契約」という。)を締結した。
   原告会社と被告は、同日、契約期間を同日から平成29年(2017年)4月12日までとし、原告会社がブランド相談業務、広告制作業務等の業務を提供し、被告がその対価を支払う旨を定める修正サービス契約を締結した。その内容は、概ね、以下のとおりである。
 ア 業務手数料
   被告は、本契約に基づき提供される業務の対価として、次のとおり、各契約年度の初めに、年間手数料を支払う(注:各年度80万ドルから100万ドルであるが、詳細は省略する。)。
 イ 業務
   原告会社が各契約年度において提供する広告制作業務等の内容は、以下のとおりである。
  a)広告制作業務 省略
  b)サンプル 省略

(3)被告は、平成25年(2013年)2月8日頃、原告会社に対し、同日付け通知書により、原告会社が修正サービス契約で定められたデザインサンプルの提供をせず、これにつき前払を受けた45万ドルの返還もしないなどとして、同月26をもって同契約を解除する旨の本件契約の解除の意思表示をした(以下「本件解除」という。)。
   原告会社は、本件解除までに、平成9年(1997年)春夏シーズンから平成25年(2013年)春夏シーズンまでの間、被告に対し、シーズンごとの宣伝広告物、ファッション雑誌等に広く掲載されて利用されるファッションイメージ写真である別紙原告写真目録記載1~126までの各写真(以下「原告写真」という。)のデータを順次交付し、これらを別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)の宣伝広告及び販売促進のために利用することについて許諾していた(利用許諾の範囲及び期間については争いがある。)。

(4)被告は、URL「http://(省略)」をトップページとする「J オフィシャルホームページ」と題するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)を運営している。
   平成27年頃の被告ウェブサイトのCONCEPTページに、「ABOUT J」のタイトルの下に被告表示1(注:原告Jの氏名)、その右に被告表示2(注:原告Jの肖像写真)がそれぞれ表示されていた。
   被告は、被告ウェブサイトのGALLERYページに、平成9年(1997年)春夏シーズンから平成25年(2013年)春夏シーズンまでのファッションイメージ写真である原告写真を複製した被告写真を掲載していた。

(5)原告らは平成27年9月4日、被告を相手方として、東京地方裁判所に対し、仮処分(以下「本件仮処分」という。)の申立てをした。同申立てにおいて、原告らは、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに表示する行為について、原告Jが保有し原告会社が独占的管理権を有するパブリシティ権を侵害するなどと主張して、被告ウェブサイトへの被告表示1及び2その他表示の差止め等を求めた。同裁判所は、平成28年3月8日、原告らの申立てを認容する決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした。
   被告ウェブサイトは、遅くとも平成28年2月5(注:本件仮処分の審尋期日)頃までには改定されて、CONCEPTページやGALLERYページが削除された。ただし、被告ウェブサイトの英語版(以下、「被告英語版ウェブサイト」といい、被告ウェブサイトと併せて「被告ウェブサイト等」という。)のCONCEPTページには、同年7月26日時点において、被告表示1及2が表示されていた。被告は、同年8月24日(注:後記第1事件の訴状の受領日)頃、同ウェブページを外部から閲覧できないようにするなどの措置を講じた。

(6)原告らは、被告に対し、平成28年8月頃、被告のウェブサイトに被告表示1及び2を掲載した行為は原告Jのパブリシティ権を侵害するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(予備的に不当利得請求権)として合計6億3008万4000円の支払いなどを求める訴えを提起した(以下「第1事件」という。)。
   原告会社は、被告に対し、自らが原告写真の著作権を有するところ、被告は被告ウェブサイトに原告のファッションイメージ写真(被告写真)を掲載して原告会社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(予備的に不当利得請求権)として合計19億6352万2007円の支払いなどを求める訴えを提起した(以下「第2事件」という。)。


【争点】

   第1事件及び第2事件において、争点は合計14個と多岐に渡る。そこで、第1事件における以下の争点(ただし、下記(2)については、パブリシティ権侵害に基づく利用料相当損害に限る。)に絞って、これらについての裁判所の判断の概要を示す。
(1)パブリシティ権侵害の有無
(2)原告らの損害及び損害額


   なお、第2事件について、裁判所は、
   被告が、被告写真を平成25年2月27日から平成28年2月5日頃まで被告ウェブサイト等に掲載することにより、原告会社の有する著作権(公衆送信権)を侵害したものと認める一方、
   原告会社の損害額については、被告写真1枚当たりの単価を1年当たり1万円と認めた上で、修正サービス契約が本件解除により終了した日の翌日である平成25年2月27日以降に被告ウェブサイトのGALLERYページに掲載されていた被告写真は126枚であること、同日からGALLERYページが削除された平成28年2月5日までの期間が約3年間であることから、被告の不法行為に基づく利用料相当損害額は、378万円(=1万円×126枚×3年間)と認めるのが相当と判示した。


【裁判所の判断】

(1)パブリシティ侵害の有無
 ア 原告Jの肖像等の顧客吸引力の有無
   原告Jの肖像等は、被告商品を含むファッション関係の商品について、その販売等を促進する顧客吸引力を有するものと認められる。
   したがって、原告Jは、これらの商品に関し、その顧客吸引力を排他的に利用する権利であるパブリシティ権を有する。
 イ 原告らの同意、承諾の有無
  a)本件解除までの間について
   原告Jの肖像写真、経歴、コメントなどを選定し、被告に使用するよう積極的に慫慂したのは原告側であり、原告らは、被告が提供した原告Jの肖像写真等が被告商品の宣伝広告に利用されることを十分に認識し、これを承諾していたというべきである。
   そして、Aは、被告ウェブサイトの開設及びその内容について事前に被告側から説明を受けていたのであるから、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに掲載することについても承諾していたものと認めるのが相当である。
  b)本件解除後について
   被告は、本件解除後も、原告らは被告表示1及び2の使用を許諾していたと主張する。
   しかし、被告表示2が原告J個人の肖像写真であり、事業に利用されるものとはいえ、協力関係や取引関係にない相手に対してもその使用を無限定に許諾するとは考えにくい性質のものであることも考え併せると、原告らは、原告らと被告が本件ブランド事業を協力して推進していることを前提にして、その期間において原告Jの肖像写真等の使用を許諾したもの、すなわち、当事者の合理的意思解釈としては、その許諾期間を原告らと被告との協力関係または取引関係が解消されるまでとする旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。
   原告らと被告との間の修正サービス契約は、本件解除により平成25年2月26日をもって終了し、原告側と被告との取引関係は解消され、両者間の信頼関係も損なわれるに至っていたのであるから、被告表示1及び2の使用許諾も本件解除により終了したものというべきである。
  c)以上によれば、被告が本件解除による修正サービス契約の終了後に被告ウェブサイトのCONCEPTページに被告表示1及び2を表示した行為は、原告Jのパブリシティ権を侵害するものであるということができる。

(2)原告らの損害及び損害額
 ア 原告らは、被告による被告表示1及び2の使用により、使用料相当額の損害を被ったと主張し、使用料相当損害額の算定方法としては、著作権法114条3項の類推適用により、売上高に相当な実施料率を乗じる方法によることが相当であると主張する。
   しかし、本件は、被告が原告らに無断で個々の商品に原告Jの肖像等を表示するなどして被告商品を販売したという事案ではなく、原告らが、修正サービス契約の終了までの間は、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに掲載して使用することを許諾していたものの、同許諾は修正サービス契約の終了(平成25年2月26日)とともに終了したため、同日以降も同各表示の掲載を継続したことについてパブリシティ権侵害が成立するという事案である。
   本件事案のかかる事実関係の下においては、被告表示1及び2の使用許諾終了後の使用による損害を算定するに当たっては、同使用許諾の終了以前の状況、すなわち、原告らと被告との間の取引状況、原告Jの肖像等の使用の対価の有無及びその額、被告表示1及び2の使用態様、それによる被告の得た経済的な利益の有無及びその額等を総合的に考慮して、損害額を検討するべきであり、売上高に相当な実施料率を乗じる方法により使用料相当額を算定することは相当ではない。
 イ そこで、以下、修正サービス契約の終了以前の事情について検討する。
  a)修正サービス契約の終了前に置いて、原告と被告との間には、商標権譲渡契約、サービス契約、サービス修正契約など複数の合意がされ、その中で、原告側と被告との間の様々な権利や義務について対価の支払や履行義務が詳細に定められていたが、原告Jのパブリシティ権の使用や被告表示1及び2の使用についての対価の支払を要求したことはない。そうすると、原告らは、修正サービス契約の終了前において、被告に対し、被告表示1及び2を無償で使用することを許諾していたということができる。
  b)原告側は、商標権譲渡契約に基づき、被告に対し、別紙商標権目録記載の各商標権を含む商標及びこれに関連するグッドウィル等の権利を4500万ドルという高額の価格で譲渡しており、また、被告から、平成17年以降はサービス契約に基づき毎年15万ドル以上の対価の支払、平成19年以降は修正サービス契約に基づき広告制作業務等の対価として毎年80万ドル以上の支払を受けていたことが認められる。これによれば、原告らは、修正サービス契約の終了以前には、本件ブランドに関連する商標権の譲渡や広告制作などの業務の提供により相応の対価の支払を得ていたものと認められる。
  c)他方、被告表示1及び2は、原告Jの氏名及び1枚の肖像写真であり、被告表示2に係る写真は平成15年にB(注:被告前代表者)がAから受領して以来、一度もアップデートされていない上、被告表示1及び2は、被告ウェブサイトのトップページではなく、その下位層を構成するウェブページに表示されているにすぎない。そして、上記のとおり、被告表示1及び2は個々の被告商品に表示されているものではなく、被告ウェブサイト以外のテレビ、雑誌、新聞等において積極的に使用されたとの事実は認められない。
  d)本件ブランドに係る被告商品の売上についても、被告表示1及び2の使用が被告の売上に影響を及ぼしたことを客観的に示す証拠はなく、むしろ、被告の売上においては、原告側から譲り受けた「J」、「J S」などの文字を含む商標権その他の権利の使用が寄与するところが大きいと考えられる。
 ウ 以上の諸事情を含め、本件に現れたその他全ての事情を考慮すると、被告表示1及び2を修正サービス契約の終了後も使用し続けたこと被告商品の販売に全く寄与していないとまではえないものの、その貢献度はごくわずかにとどまるというべきである。
   そして、本件においては、修正サービス契約の終了以前に被告表示1及び2の使用が無償で許諾されており、使用料相当額の算定において参照し得る合意等も存在しないこと、原告らが同様の表示について他の第三者に使用許諾した事例なども存在しないことなどの事情が認められ、損害額の立証が事案の性質上極めて困難であるので、
   上記の諸事情、本件解除後の被告表示1及び2の使用期間、弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌しつつ相当な損害額を認定することとすると、
   原告Jのパブリシティ権侵害による損害額としては、被告表示1及び2が違法に使用されていた期間(平成25年2月26日から被告英語版サイトの外部閲覧を遮断する措置が採られた平成28年8月24日まで)を通じ、100万円と認定することが相当である。