東京地裁令和2年3月19日判決(判例秘書【L07530028】)

原告商品はカテゴリー名を「素材」とする編集著作物であるとは認められず、カテゴリー名の選択又は配列に著作権法上の創作性があるとも認められない旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)原告は,インターネットを利用した各種サービス等の企画,製作及び販売等を目的とする株式会社である。
   被告会社は,インターネットを利用した各種サービス等の企画,製作及び販売等を目的とする株式会社であり,被告Aは,被告会社の代表取締役である。

(2)原告は,平成29年5月12日より前に,訴外株式会社R(以下「訴外R」という。)との間で、LINE@(注:訴外LINE株式会社の提供する、企業や店舗ビジネス向けのアカウントのことである。)を利用した集客、マーケティングを支援するためのツール(以下「原告商品」という。)の開発を、原告が訴外Rに委託することについて基本合意を締結した。
   原告は、平成29年11月7日、訴外Rとの間で、上記基本合意に基づき、原告商品の開発について業務委託基本契約を締結し、同日付で業務委託基本契約及び覚書が作成された。同契約書の第11条1項には、「成果物の著作物(著作権法第21条から第28条に定める全ての権利を含む)は、特段の定めがない限り、成果物の給付完了の日に乙(注:訴外R)から甲(注:原告)に移転するものとする。」との記載がある。
   訴外Rは、平成30年2月28日、原告商品を原告に納品した。ただし、原告商品は、販売されていない。

(3)被告会社は、LINE@を利用した集客、マーケティング支援ツールである、別紙物件目録記載のアプリケーション(以下「被告商品」という。)の開発を外部に委託した。被告会社は、平成30年7月25日、被告商品の販売を開始した。

(4)原告商品は、それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものである。そして、原告商品の各表示画面に対応する表示の名称をカテゴリーといい、原告商品のパソコン等における表示画面は、「親カテゴリー」、「大カテゴリー」、「中カテゴリー」及び「小カテゴリー」の4段階の階層構造となっている(カテゴリー構造図参照)。カテゴリー構造図
   他方、被告商品も、それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものである。そして、被告商品のパソコン等における表示画面も、4段階の階層構造となっている。

(5)原告は、本件訴訟を提起して、被告が原告に無断で被告商品を製作し、インターネットを通じて顧客に提供した行為が、編集著作物である原告商品について原告が有する著作権(複製権、送信可能化権、公衆送信権)を侵害すると主張して、①著作権法112条1項に基づき、被告商品の複製、送信可能化又は公衆送信の差止めを、②同条2項に基づき、被告商品及びその複製物(被告商品を格納した記録媒体を含む。)の廃棄を、③被告会社に対し、民法709条に基づき、被告Aに対し、会社法429条1項に基づき、連帯して、損害賠償金2376万円及び遅延損害金の支払を求めた。


【争点】

(1)原告商品の編集著作物性(著作権法12条1項)該当性(争点1)
(2)被告商品の依拠性・類似性(争点2)
(3)被告会社の故意・過失の有無(争点3)
(4)被告Aの悪意・重過失による任務懈怠の有無(争点4)
(5)損害の有無及び額(争点5)
   以下,裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(原告商品の編集著作物性(著作権法12条1項)該当性)について
 ア 原告は、本件において、パソコン画面等で表示される原告商品の親カテゴリーから小カテゴリーに至る各カテゴリー名が「素材」であって、その「素材」の選択及び配列に創作性が認められるとして、原告商品が編集著作物(著作権法12条)であると主張する。
   しかし、原告商品は、パソコン等において各種の確認や作業等を行うことができるものであり、その確認、作業等を行ったりするためにパソコン等において、様々な内容が表示される複数の画面を表示することができるものである。
   ここで、原告が素材と主張するカテゴリー名は、パソコン等の画面において、原告商品において選択することができる機能に対応する画面を示すために、画面の上部に、ロゴ等表示部分の下のやや太い青みがかった線に、白抜き文字で表示されているものであったり(親カテゴリー名、中カテゴリー名)、親カテゴリー名又は中カテゴリー名を選択した場合に、そのカテゴリー名の下に、もとの画面の前面に、表示されるものであったり(大カテゴリー名、小カテゴリー名)、各画面において、原告商品の全ての画面に共通するロゴ等の表示部分及びカテゴリー名を表示するやや太い青みがかった線の下に、示されるものである(小カテゴリー)。
   このような原告商品とそこにおけるカテゴリー名の使用の態様に照らせば、これらのカテゴリー名は、原告商品の異なる画面において、他にも多くの記載がある画面の表示の一部として表示されるものであって、原告商品をもって、カテゴリー名を「素材」として構成される編集物であるとはいえない。
   そうすると、原告商品が編集著作物であり、カテゴリー名自体が原告商品の素材であると主張する原告の主張は、その余を判断するまでもなく理由がない。
 イ また、原告は原告商品を編集物であることを前提に、カテゴリー名の選択と配列において創作性を有し、そのカテゴリー名の選択と配列において被告商品と共通すると主張する。
   この点、原告商品を利用した場合には、パソコン等において、視覚的に認識することができる様々な画面が表示される。それらの各画面は、原告が選択したカテゴリー名に対応するものといえ、また、それらはパソコン等の画面において、階層的に配列されているともいえる。他方、被告商品においても、カテゴリー名に対応する画面が表示されるといえる。
   しかし、原告商品の各画面は、そのカテゴリー名に対応する機能を実現するために表示されるものである。そうすると、原告商品における各カテゴリー名と各画面の表示との関係は、何らかの素材をカテゴリー名やその階層構造に基づいて選択、配列したというものではなく、カテゴリー名に対応する機能を実現するための画面の表示があるといえるものである。
   そして、カテゴリー名は、結局、それに対応して原告商品が有する機能・利用者が利用しようとする機能を表すものである。そうすると、原告の原告商品と被告商品がカテゴリー名の選択と配列の点で共通しているとの主張は、結局、ある商品において採用された機能やその機能の階層構造が共通していると主張しているのに等しい部分がある。しかし、ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は、編集著作物として保護される対象となるものではない。
 ウ さらに、原告は、原告商品におけるカテゴリーの名称のそのものについて選択の幅があること、その階層構造などから、カテゴリー名の選択、配列に創作性があると主張する。
   しかし、LINE@を用いた集客、マーケティング支援ツールという原告商品においてどのような機能を実装するかはアイデアに過ぎず、それ自体は著作権法の保護の対象となるものではない。
   そして、
  ①「素材」たる各カテゴリー名の名称の選択についてみると、上記のような原告商品の性質上、各カテゴリーに伏す名称は、各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し、ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため、その選択の幅は自ずと限定される。そのような視点で選択された原告商品の各カテゴリー名は、それ自体をみてもありふれたものである。
   現に、原告商品の「メッセージ」、「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか、原告商品の「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられている。
   また、原告商品において用いられている「基本」や「ホーム」といったカテゴリー名は、他社商品においては用いられてはいないものの、消費者とのコミュニケーションを図るという観点から頻繁に使われる機能を取りまとめたカテゴリーに付されたものであり、上記のような原告商品の性質を踏まえると、カテゴリー名の選択としてはありふれたものである。
   したがって、原告商品における各カテゴリーの名称は、各カテゴリーが果たす機能を表現するものとしてはありふれたものといえる。
   次に、
  ②各カテゴリー名の配列についてみても、原告商品においては、「基本」という最上位の階層に、消費者とのコミュニケーションを図る上で利用可能な機能を取りまとめ、その中でも消費者とのコミュニケーションを図る上で日常的に利用する機能を「基本」の下の階層の「ホーム」に取りまとめるなどされているほか、多種多様な機能を果たす「ホーム」より下のカテゴリーについては、小カテゴリーに至るまで階層を設けてカテゴリー分けがされるなど他社商品に比して複雑な階層構造が採用されており、各カテゴリー名の配列について一定程度の工夫はされていると認められる。
   しかし、ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から、実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し、機能の重要性や昨日同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり、原告商品の各カテゴリー名の配列は、複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの、ありふれたものというべきである。

(2)結論
   以上によれば、原告商品はカテゴリー名を「素材」とする編集著作物であるとは認められないし、原告が主張するカテゴリーの名称やその配列について検討しても、その選択又は配列に著作権法上の創作性があるとは認められない。
   そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない(請求棄却)。


 

東京地裁令和2年3月4日判決(コピライト715号63頁)

原告が創作的表現であると主張しているソースコードは、作成者の個性が表れているということはできず、著作権法で保護されるべき著作物であると認めることはできないと判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)原告は、コンピュータシステムの開発及び技術支援等を目的とする株式会社である。
   被告は、企業から開示された情報の調査、収集及び提供等を目的とする株式会社であり、平成23年以降、有価証券報告書等の編集から完成までをサポートするソフトウエアである「X」をクラウドサーバ上で顧客に提供している。
   株式会社A(以下「A社」という。)は、企業内容開示に関連するソフトウエアの研究、開発等を業とする株式会社であり、被告の完全子会社である。

(2)Xは、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類の電子開示システム(以下「EDINET」という。)に提出する開示書類を作成するためのソフトウエアである。
   別紙2プログラム目録(略)記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)は、Xに組み込んで用いることができる「X 簡易組替ツール」という名称のプログラムであって、①ユーザーが作成した会計に関するエクセルファイル等をXに取り込む機能及び②勘定科目を開示科目に簡易に組み替える機能を有するものである。

(3)原告は、平成23年11月7日、A社との間で、A社から原告に対して発注される目的物の取引に関する取引基本契約(以下「本件基本取引契約」という。)を締結した。本件取引基本契約には、契約の履行に関連して原告が著作物を創作した場合、当該著作物の著作権に関する取扱いは、A社及び原告で協議して決定する旨の条項(19条3項)がある。
   原告は、平成24年8月23日以降、順次、A社との間で、本件取引基本契約に基づく個別契約を締結し、本件プログラムの設計、実装、結合試験等を受注した。

(4)原告は、平成24年8月24日、株式会社B(以下「B社」という。)との間で業務委託基本契約(以下「本件業務委託基本契約」という。)を締結し、同契約に基づき、同日以降、順次、B社に対して、A社から発注を受けた本件プログラムの設計、実装、結合試験等を発注した。本件業務委託基本契約には、納入物件に係るB社の著作権は、当該納入物件の受領をもって原告に移転する旨の条項(16条1項)がある。
   原告は、B社において同日から平成26年3月31日までの間に開発した上記発注に係るプログラムを、順次、A社に対して、B社から納品を受けた上で、又はB社から直接に納品した。
   原告は、平成26年4月1日から平成28年9月15日までの間に、順次、本件取引基本契約に基づき、A社から発注を受けた本件プログラムを開発し、同日、A社に対して、本件プログラムを納品した。

(5)被告は、平成29年9月5日まで、顧客に対し、クラウドサーバ上で、Xと共に本件プログラムを提供していた。
   原告は、本件訴訟を提起して、被告において、原告の創作した本件プログラムを組み込んだXをクラウドサーバ上で顧客に提供することにより、本件プログラムを複製し、送信可能化して、原告の本件プログラムについての著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するとともに、この侵害行為により作成された複製物を業務上電子計算機において使用することにより、原告の上記著作権を侵害したものとみなされる旨主張して、被告に対し、対象期間を平成26年6月9日から平成29年6月8日までとする不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金1億1800万円及びこれに対する遅延訴外金の支払を求めた。


【争点】

(1)本件プログラムは著作物といえるか(争点1)
(2)原告は本件プログラムの著作権を有するか(争点2)
(3)著作権侵害の成否(争点3)
(4)被告に著作権侵害について故意又は過失が認められるか(争点4)
(5)損害の発生の有無及びその額(争点5)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)争点1(本件プログラムは著作物といえるか)について
 ア プログラムは、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合わせ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れる。
   したがって、プログラムが著作物であるというためには、指令の表現自体、その指令の表現組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要すると解される。
 イ 以下、本件プログラムのうち、原告が創作的表現であると主張している部分(注:別紙6ソースコード目録(略)記載1ないし14の各ソースコード(以下、番号に対応させて「本件ソースコード1」などといい、これらを一括して、「本件ソースコード」という。)のこと)について検討する。
  a)ドロップダウンリストの生成に係る部分
   本件ソースコード1には、画面1の「ファイル形式」を選択するドロップダウンリストを生成する処理が記述されているところ、原告は、本件ソースコード1では、ドロップダウンリストを「asp:DropDownList」を利用して別の箇所で生成しているが、他の表現1(略)のように、ドロップダウンリストを直接生成することもできるから、選択の幅があり、ここに原告の個性が表れている旨主張する。
   しかしながら、本件プログラムの開発はASP.NET環境下で行われているところ、「asp:DropDownList」は、ドロップダウンリストを生成するためのツールとして、ASP.NET環境で用意されているものであり、これを利用する方法は一般的なことであると認められるから、他の表現1があるとしても、「asp:DropDownList」を利用することに作成者の個性が表れているということはできない。
   また、本件ソースコード1の具体的な記述も、ASP.NET環境で利用可能な宣言構文のとおりのものであると認められるのであって、作成者の個性が表れていると認めるに足りず、創作的表現であるとはいえない。
  b)サブルーチンに係る部分
   原告は、本件ソースコード2ないし4について、サブルーチン化するか否か、サブルーチン化するとしてどのようにサブルーチン化するかについて選択の幅があると主張する。
   しかしながら、サブルーチンは、高等学校工業科用の文部科学省検定済教科書である乙232文献(略)にも記載されているような基本的なプログラミング技術の一つであり、プログラム中で繰り返し現れる作業につきサブルーチンに設定することで可読性及び保守性を向上させることができ、そのような観点からサブルーチンを設定することは一般的な手法であると認められるから、本件ソースコード2ないし4にサブルーチンが設定されているというだけでは、作成者の個性が表れていると認めるに足りないというべきである。
   以上に加えて、原告は、上記の各点以外に、本件ソースコード2ないし4の記述に選択の幅があることを具体的に主張立証しておらず、これらを創作的表現であると認めるに足りない。
  c)条件分岐及びループに係る部分
  ①本件ソースコード7には、ファイルの最大列数や項目名の開始列を取得する処理が記述されているところ、原告は、本件ソースコード7では、全てのデータに対してforeach文でループを行っているが、他の表現7(1)(略)のように、あらかじめ決められた条件で抽出されたデータに対してのみループを行うことも可能であり、他の表現7(2)(略)のように、for文でループを行うこともできるから、選択の幅があり、ここに原告の個性が表れている旨主張する。
   しかしながら、C#において、foreach文は、複数のデータの集まりの各要素を最初から最後まで1回ずつ呼び出して処理するものであり、for文等と共に複数の文献(証拠略)に記載されているループの基本的な制御文であって、for文等で記述された処理を代替し得るものであると認められるから、本件ソースコード7のように、ファイルの最大列数や項目名の開始列を判別するに当たり、foreach文を使用すること自体は一般的なことであると認められ、そのこと自体に作成者の個性が表れているということはできない。
   また、他の表現7(1)及び(2)は、ループを行う範囲を限定するものであると認められるが、同等の処理を行うものと認められる本件ソースコード7と比べて記述が長く、可読性が低下していると認められるところ、あえてそのような記述をする必要があると認めるに足る証拠はないから、これを選択可能な他の表現であるとは認めがたい。
  ②本件ソースコード8には、金額の単位を選択するために画面3に表示されるドロップダウンリストを生成するための判別処理等が記述されているところ、原告は、本件ソースコード8では、foreach文によるループの中で、求める条件が正しい場合に次の条件に進むように記述しているが、他の表現8(略)のように、求める条件が正しくない場合にループをやり直すように記述することもできるから、選択の幅があり、ここに原告の個性が表れている旨主張する。
   しかしながら、foreach文は、ループの基本的な制御文であるから、本件ソースコード8のように、ドロップダウンリストを生成するための判別処理として、foreach文を使用すること自体は一般的なことであると認められ、そのことに作成者の個性が表れているということはできない。
   また、他の表現8に用いられているcontinue文は、ループの中で使用され、その前のif文が真になった場合にcontinue以降の処理をスキップして、次のループ処理の最初に戻るものであると認められるものの、if文を用いた本件ソースコード8と比べてソースコードが長く、可読性が低下していると認められ、あえてそのような記述をする必要があると認めるに足る証拠はないから、これを選択可能な他の表現であるとは認め難い。
  d)変数の設定に係る部分
   本件ソースコード10は、画面4に表示される会計科目のデータの判別及び設定を行う処理が記述されているところ、原告は、本件ソースコード10では、変数に対して判別結果を直接設定し、条件演算子「?」、「:」を使用しているが、他の表現10(略)のように、if文によって変数に設定する値を変えることもできる、実際の表現の方が簡潔に記載されているが、他の表現10にも、デバッグやログの出力をしやすいといった利点があるのであって、選択の幅があり、ここに原告の個性が表れている旨主張する。
   しかしながら、条件演算子は、条件に基づいて複数の処理を選択する演算子であると認められ、if文等の条件分岐の制御文と同様の処理を行い得るものであって、両者は代替され得るものとして認識されていると認められるから、本件ソースコード10のように、会計科目のデータの判別及び設定を行うに当たり、条件演算子を使用すること自体は一般的なことであると認められ、変数に対して判別結果が直接設定されることが特殊なことであると認めるに足る証拠もないから、それらに作成者の個性が表れているということはできない。
   また、原告は、上記の点以外に、本件ソースコード10の記述に選択の幅があることを具体的に主張立証していないから、これを創作的表現であると認めるに足りない。
  e)チェック処理に係る部分
   本件ソースコード11には、組替操作時に画面4でドロップされた行番号の取得及び変換を行う処理が記述されているところ、原告は、本件ソースコード11では、TryParseメソッドの戻り値でドロップされた行番号のチェック結果を判別しているが、他の表現11(略)のように、Parseメソッドを用いて、まず行番号の取得を試みて、エラーが発生するかどうかでチェック結果を判別することもできるから、選択の幅があり、ここに原告の個性が表れている旨主張する。
   しかしながら、TryParseメソッド及びParseメソッドは、いずれもC#ライブラリに標準機能として搭載された、文字列を数値に変換する手法であるところ、TryParseメソッドは、変換に失敗したときに、例外として情報を取得し、それを精査することにより失敗の原因を究明することができるとされるParseメソッドより短くなると認められ、本件ソースコード11のように、ドロップされた行番号の取得及び変換を行うに当たり、TryParseメソッドを用いること自体は一般的なことであると認められ、そのことに作成者の個性が表れているということはできない。
   また、原告は、上記の点以外に、本件ソースコード11の記述に選択の幅があることを具体的に主張立証していないから、これを創作的表現であると認めるに足りない。
  f)デバッグログを出力するコードに係る部分
   原告は、本件ソースコード12にデバッグログを出力するコードが挿入されていることに作成者の個性が表れると主張する。
   しかしながら、プログラムの開発過程において、プログラムの保守及び変更等の必要から、不具合があり得ると考えられるソースコード上にデバッグログを出力するコードを挿入することは一般的に行われていることであると認められるから、デバッグログを出力するコードが挿入されているというだけで、そのことに作成者の個性が表れているということはできない。
   また、本件ソースコード12のデバッグログを出力するコードの記述に作成者の個性が表れていることについて原告は具体的に主張立証していないから、これを創作的表現であると認めるに足りない。
  g)コメントに係る部分
   原告は、本件ソースコード14等におけるコメントの有無及びその内容にプログラム作成者の個性が表れる旨主張する。
   しかしながら、前記アのとおり、プログラムは、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したしたもの(著作権法2条1項10号の2)であるところ、コメントは、コンピューターの処理の結果に影響するものではなく、コンピューターに対する指令を構成するものであるとはいえないから、上記のプログラムに当たらない。
   また、原告は、本件ソースコード14のコメントの内容に作成者の個性が表れていることを具体的に主張立証しておらず、これを創作的表現であると認めるに足りない。
  h)小括(本件ソースコード)
   以上のとおり、原告が創作的表現であると主張している本件ソースコードについて、作成者の個性が表れているということはできず、著作権法で保護されるべき著作物であると認めることはできない。
   そして、原告は、本件ソースコード以外、本件プログラムのどの部分に作成者の個性が表れているかを具体的に主張立証しておらず、本件プログラムに著作物性を認めるに足りないというべきである。

(2)結論
   以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない(請求棄却)。


 

大阪高裁令和2年3月25日判決(労働判例1228号87頁)

退職後も担当業務に関して生じた損害につき弁済義務を負う旨の労使間の合意は、労働者の自由意思によるものとはいえず、公序良俗に反し、無効と判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)被控訴人(1審原告)は、不動産の売買及び賃貸等を主たる業務とする株式会社である。
   被控訴人は(1審被告)は、宅地建物取引主任者(現在の資格名は宅地建物取引士)の資格を有し、平成17年頃、被控訴人との間で、日給1万円(賞与なし)の賃金の支払を受けて、被控訴人の業務を行う旨の労働契約を締結し、被控訴人の業務を行っていた。

(2)被控訴人は、平成18年1月頃、大阪地方裁判所の競売に付されていた大阪府a市所在の原判決別紙物件目録(略)記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を、入札価格460万円で落札し、その所有権を取得した。

(3)控訴人は、同年頃、被控訴人代表者A(以下「A」という。)に対し、控訴人の知人であるBが経営する不動産会社である株式会社B(以下「B社」という。)が話を持ち込んできた愛知県b市所在の不動産(以下「b物件」という。)の取引を勧めた。
   被控訴人は、これを受けて、平成18年6月12日、B社との間で、愛知県b物件に関して、下記内容の覚書を取り交わした。その際、被控訴人は、下記イのとおり、B社の保証人となった。
 ア 被控訴人は、B社の依頼に応じて競売物件(b物件)の落札を行う。
 イ B社は、被控訴人に依頼した競売物件の販売を、責任を持って行うこととし、万が一損金を出した場合、控訴人と共に弁済する。
 ウ 報酬は下記のとおりとする。
   純益=販売価格-{落札費用+諸費用(登記費用、取得税等一切の費用)}
   純益の60%を被控訴人の取り分とし、40%をB社の取り分とする。
   被控訴人は、同年7月頃、b物件を競売により落札し、その所有権を取得した。

(4)被控訴人は、平成19年4月、山梨県c市所在の不動産(以下「c物件」という。)の競売の際、B社に入札に係る費用841万6600円を貸し付け、B社が落札した。

(5)控訴人は、同年12月20日頃、Aから退職を求められたため、被控訴人を退職した。
   控訴人は、同月22日、下記内容の被控訴人宛ての覚書に署名した上、指印及び押印をした(以下、上記覚書を「本件覚書」といい、本件覚書記載の下記内容の合意を「本件合意」という。)。
 ア b物件、c物件及び本件不動産については、控訴人が被控訴人を退職した後も責任を持ち、販売について努力する。平成20年4月末日をめどとする。
 イ 万が一被控訴人に損害が生じた場合は、控訴人は損金について弁済義務があり、責任をもって支払う。

(6)その後、被控訴人は、b物件を売却し、約420万円の利益を得た。被控訴人とB社は、上記(3)ウの合意に基づいて上記利益を分配し、被控訴人はB社に160万円以上の分配金を支払った。

(7)B社及び控訴人が、本件不動産を売却することができなかったことから、被控訴人は、平成30年5月8日、その費用を負担してリフォームした上で、本件不動産を約595万円で売却した。その結果、被控訴人に約240万円の損失が生じた。

(8)被控訴人(一審原告)は、本訴を提起して、本件合意により補填されるべき損金約240万円が生じたと主張して、控訴人(一審被告)に対し、本件合意に基づき、上記損金及び遅延損害金の支払いを求めた。
   原審(大阪地裁平成31年4月23日判決・労働判例1228号93頁)は、本件合意が脅迫によるものであるとも、公序良俗に反するとも認められないとして、被控訴人の請求を全部認容した。控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。


【争点】

(1)本件合意は公序良俗に反するか
(2)損金の額
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)認定事実
   控訴人の供述等を総合すれば、以下の事実が認められる。
 ア 被控訴人は、平成18年1月頃、本件不動産を競売により落札したが、その手続を行ったのは、控訴人ではなく被控訴人の若手の営業担当者であり、控訴人は全く関与していなかった。しかし、売却が難しそうな物件であったため、上記落札についてAがひどく怒り、その際、控訴人は、上記営業担当者をかばって代わりにAに謝った。
 イ 控訴人は、平成19年4月、c物件を競売で落札したことによる代金納付期限の2日前に、Aから現地に行くように命じられ、必要書類等を携えてBに同行した。控訴人は、それより前にc物件を見たり、その取引に関与したりしたことはなかった。
 ウ Cは、D組系暴力団組員であったところ、被控訴人の事務所に毎日のように顔を出し、控訴人を含む被控訴人の従業員にD組の代紋のストラップを見せびらかし、被控訴人のトラブルに介入するなどしていた。Cは、平成18年5月頃、営利目的誘拐と恐喝の被疑事実により逮捕・勾留され、その後起訴された。
 エ 控訴人の妻であるEも、宅地建物取引主任者の資格を有していたため、平成18年頃から被控訴人に勤務するようになった。Eは、控訴人が平成19年12月20日頃に被控訴人を退職した後も、しばらく被控訴人での勤務を続けていた。
 オ 控訴人は、退職直後の平成19年12月20日、被控訴人の関係者のFから呼び出され、被控訴人の事務所を訪れた。Fは、被控訴人に対し、被控訴人宛の本件覚書への署名押印を求めた。
   控訴人は、本件覚書記載の損金をなぜ控訴人が弁償しなければならないのか疑問を抱き、Fに対して「なんで書かなあかんねん。」と述べた。しかし、控訴人は、Fから「奥さんもまだおることやし。書いとけ。」などと言われた。そのため、控訴人は、A、F及びCらによる控訴人、Eに対する報復を恐れて、本件覚書に署名指印した。
   指印にした理由は、押印にするのに心理的な躊躇があったためである。しかし、控訴人は、Fから、控訴人がいつも携帯している実印を押せと言われたため、指印の右下に実印も押印した。
   また、控訴人は、Fから「いつまでに三つの物件を売るか、書け。」などと命じられた。そのため、控訴人は、手書きで「平成20年4月末日を目処とします。」と記載した。
 カ 控訴人は、b物件の売却後、B社(B)から7万円程度の金銭を受け取った。

(2)判断
 ア 上記(1)の認定事実等によれば、本件合意に関し、以下の点を指摘することができる。
  a)控訴人は、労働契約に基づき被控訴人に対して業務提供をしていたから、控訴人と被控訴人の権利義務関係については、労働基準法の適用を受ける。そして、同法16は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定している。
   本件合意は、その成立時期が控訴人の退職直後であるものの、使用者が労働契約関係にあった労働者に対して、退職後も上記労働契約に付随して努力する義務を負わせた上、将来被控訴人に損害が生じた場合には、事情の如何を問わずその全額の賠償を約束させるものにほかならず、実質的には、上記労働基準法の規定の趣旨に反するものである。
  b)控訴人が被控訴人に取引を勧めたのは、本件覚書記載の3物件のうちb物件のみであり、本件不動産及びc物件については、控訴人が入札の可否に関する判断をしたわけではなく、その他、被控訴人に生じた損金を補填しなければならないような合理的理由を何ら見出すことはできない。
  c)本件合意は、上記3物件の転売による利益は被控訴人が取得することを前提としながら、損金が生じた場合はその全額を控訴人に負担させるというものであり、極めて不公平で一方的な内容のものというほかない。
  d)被控訴人は、本件不動産を460万円で落札し、596万2853円で転売したものの、リフォーム工事代金やコンサルタント料等の出金を経費に算入すると、239万9835円の損金(注:出金合計836万2688円と入金596万2853円との収支差額)が発生したと主張している。
   しかし、上記3物件のうちb物件においては約420万円の利益が発生しており、被控訴人はB社に約160万円を分配しても、なお約260万円の利益を確保している(なお、控訴人は、b物件の売却後に7万円程度を受け取っているが、このことをもって被控訴人から利益の分配を受けたものと評価することはできない。)。
   このように、本件合意は、本件不動産の損金のみを切り離し、これをいわば別枠にしてその全額を控訴人に填補させる一方、利益が生じた場合に控訴人にこれを分配することを何ら予定していないから、控訴人に何らのメリットもなく、一方的に被控訴人に有利な内容のものというべきであり、社会的相当性を欠くものというほかない。
  e)以上のとおり、本件覚書は、被控訴人に一方的に有利で、かつ、控訴人に一方的に不利益な内容であって、既に被控訴人を退職していた控訴人が本件覚書に係る本件合意をする合理的理由を何ら見いだせないにもかかわらず、控訴人が本件覚書に署名押印したのは、これを拒否した場合に控訴人及び当時被控訴人に就労中の妻Eに加えられることが想定される、A及び被控訴人関係者(F,C)からの報復を恐れたためであると解するのが自然であり、これに沿う控訴人の供述(原審・当審)は信用できる。
   したがって、本件合意は、控訴人の自由意思によるものとは到底いえないというべきである。
 イ 上記アの点を総合すれば、本件合意は、その内容においても、控訴人の自由意思によるものとはいえない点においても、公序良俗に反し、無効というべきである。
   そうすると、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人の請求は理由がないことになる。

(3)結論
   原判決は失当であるから、これを取り消す(請求棄却)。