大阪地裁令和元年9月12日判決(判例秘書登載)

何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するツイートは、特段の事情の認められない限り、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解されると判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。なお、反訴請求については省略する。)は、平成20年2月6日に大阪府知事に就任し、その後、大阪市長に就任していたが、本件投稿がなされた平成29年10月29日以前に、知事、市長を退任し、弁護士、テレビのコメンテーターなどとして活動している者である。
   本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)は、平成29年10月29日以前から、デジタルコンテンツの企画等を目的とし、インターネットを利用して報道等を行う株式会社Aの代表取締役であり、また、ジャーナリストとして活動する者である。

(2)被告は、平成2019年10月29日、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)において、以下の内容の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。なお、本件投稿当時,被告のアカウントのフォロワー数は18万人を超えていた。
   「Retweeted △△大阪市解体の住民投票は中止な(@△△):
    X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    http://(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」
   被告は、遅くとも本件提訴時(平成29年12月15日)までに、本件投稿を削除した。

(3)本件投稿は、ツイッターにおいて他人がした投稿を引用する形式で自己のアカウントから投稿する方法(リツイート)によりなされた投稿であり、本件投稿の引用元となった投稿は,平成29年10月28日になされた以下の内容の投稿(以下「本件元ツイート」という。)である。なお、本件元ツイートは、デイリースポーツに掲載された「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」」との記事を引用したものである。
   「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    headlines.yahoo.co.jp/(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」


【争点】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
(4)本件提訴が訴権の濫用に当たり、被告に対する不法行為を構成するか(争点4)
(5)被告の損害の有無・内容(争点5)
   以下、本訴請求に関する上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告は、争点1に関する本件投稿の行為主体について以下のとおり主張した。
   リツイートの機能には、自らの意見を発信する以外に、リツイートをした者が第三者の投稿内容(元ツイート内容)を紹介して拡散することも含まれる。その拡散の目的には、元ツイートの内容に賛同する意思表示の場合もあれば、内容に批判的であるからこそ紹介する場合、リツイートをした者の単なる備忘録的な目的の場合など、様々な場合がある。被告は、本件元ツイートを情報提供の趣旨でリツイートしたに過ぎないから、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであって、当然に被告の投稿(発言)と同視して評価して、被告を本件投稿の行為主体とみることはできない。


【裁判所の判断】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
 ア 本件投稿の行為主体(責任の帰属主体)について
   本件投稿は、リツイートの形式で、何ら被告によるコメントを付すことなく投稿されたツイートであるところ、被告は、この点を指摘して、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであると主張する。
   そこで検討するに、ツイッターにおいては、投稿者は、自己の発言を投稿するのみならず、他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ、リツイートの際には、自己のコメントを付して引用することや、自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして、投稿者がリツイートの形式で投稿する場合、被告が主張するように、元ツイートに賛同する目的でこれを引用する場合や、元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など、様々な目的でこれを行うことが考えられる。
   しかし、他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合、何らのコメントも付加しないで元ツイートを引用することは考えがたく、投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。したがって、何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者が、自身のフォロワーに対し、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。
   そうすると、本件投稿においては、上記特段の事情は認められないから、本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は、本件投稿の投稿者である被告による、本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告は、本件投稿の行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。
   仮に、被告が本件投稿を行った主観的意図がフォロワーに対する情報提供という点にあったとしても、前記のとおり、一般の閲読者と閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると、何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば、その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるべきである。
 イ 本件投稿の名誉毀損行為該当性について
  (ア)一般に、名誉毀損の成否が問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかについては、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものであり、そのような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
   また、人の社会的評価を低下させる表現は、事実の摘示であるか、意見ないし論評の表明であるかを問わず、人の名誉を毀損するというべきであるところ、ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈して判断すべきものと解される(以上につき、最高裁平成16年7月15日判決等参照)。
   そこで、これらを前提に、以下、本件投稿が原告に対する名誉毀損行為に該当するかについて検討する。
  (イ)本件投稿の性質について
  (a)本件投稿は、「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実を摘示する表現と認めるのが相当である。
  (b)これに対し、被告は、仮に、本件投稿が被告の表現と理解されるべきとしても、本文末尾の「忘れたのか!恥を知れ!」との部分を表現の核心部分とする原告の言動に対する被告の意見論評であるなどと主張する。
   しかし、「忘れたのか!恥を知れ!」との表現部分は、原告の言動を非難する表現ではあるものの、自己の見解を具体的に述べるものではなく、抽象的に非難する言葉を記載しただけのものであり、それが、「X1氏が30代で大阪府知事になったとき,20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだこと」という、それ自体原告の社会的評価を低下させる事実を記載した文言に続くものであることからすると、本件投稿を全体としてみた場合、上記(a)に説示したとおり、表現の中心的部分は「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示する部分というべきであるから、上記被告の主張は採用できない。
 ウ 本件投稿による原告の社会的評価の低下の有無について
   上記イのとおり、本件投稿は、被告が「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示するものであるところ、本件投稿の一般の閲読者の注意と読み方を基準とすれば、同事実は、原告について、部下職員を自殺に追い込むようなパワーハラスメントを行った人物であるとの印象を与えるものであるから、本件投稿は原告の社会的評価を低下させる表現であると認められる。
 エ 以上に検討したところによれば、本件投稿は、被告の原告に対する名誉毀損行為に該当する。

(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
   事実を摘示してする名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分において真実であるとの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、その行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについての相当の理由があれば、その故意または過失は否定されるものというべきである(最高裁昭和58年10月20日判決等参照)。
   この点、被告は、原告の主張に対応する真実性の抗弁(原告の主張する摘示事実を前提とし、それが真実である旨の主張)の主張をしていない。しかし、当事者の主張内容に鑑み、念のため、これを本件投稿についてみても、本件投稿による被告の名誉毀損行為について、真実性の証明による違法性阻却は認められず、被告の故意、過失も否定されない(なお、仮に、本件投稿を被告の意見論評を表現するものと解する余地があったとしても、その前提となる重要な事実は、前記(1)イ(イ)(a)に説示したとおりであり、それが真実であるとか、被告がそれを真実と信じていたとは認められないから、やはり違法性は阻却されず、被告の故意、過失も否定されない。)。

(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
 ア 慰謝料 30万円
   被告は、テレビや雑誌で活動する著明なジャーナリストで、本件投稿がなされた被告のツイッターのフォロワー数は18万人を超えており、このように社会的影響力のある被告による本件投稿は、一般人のツイートとは異なり、拡散力、信用力が大きいものと考えられること、本件投稿のその後の拡散(本件投稿に対するリツイート)状況は不明であるものの、インターネット上の表現の特質として、インターネット上から完全に削除することは事実上不可能であること、被告は、遅くとも本件投稿の約1か月半後の本訴提起時(平成29年12月15日)までには本件投稿を削除していることのほか、原告及び被告の社会的地位ないし活動状況等、本件に現れた本件投稿に関する一切の事情を総合考慮すれば、被告の本件投稿による名誉毀損行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、30万円と認めるのが相当である。
 イ 弁護士費用 3万円

(4)結論
   以上によれば、原告の本訴請求は、33万円およびこれに対する遅延損害金を求める限度で理由がある(一部認容)。


 

大阪高裁平成31年1月22日判決(自保ジャーナル2042号16頁)

医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされていることから、右膝内側半月板損傷の機能障害に関し、後遺障害等級第12級相当の損害を認定した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成27年8月7日午前11時36分頃
 イ 発生場所 京都府市宇治市内の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 甲車両  1審原告兼反訴被告(以下「1審原告」という。)が運転する普通乗用自動車
 エ 乙自転車 1審被告兼反訴原告(以下「1審被告」という。1962年3月生)が運転する自転車
 オ 事故態様 1審原告が、甲車両を運転し、本件道路を東から西に向かって走行し、対向車と離合するため道路左側に甲車両を寄せたところ、1審被告も、その頃、同一方向に向かって本件道路左端を走行していたため、乙自転車と甲車両の左側面後部が衝突した。

(2)1審被告(本件事故当時53歳)は、a市交通局b営業所に勤務し、市バス業務を担当する地方公務員であるが、本件事故当時、主にデスクワークを担当していた。
   1審被告は、事故当日の平成27年8月7日、B病院で診察を受け、痛みのため右膝の屈曲が困難であると訴えたところ、同病院のA医師は、同日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」と診断した。
    1審被告は、その後、A医師の容認の下、自宅近くの接骨院で施術を受けていたが、B病院での診療の際には、右膝の違和感、階段降下時の膝崩れ、右膝屈曲時の膝の内側の痛みなどを訴えていた。そこで、A医師は、同年10月9日、MRI検査を行ったところ、右膝内側半月板損傷が疑われる所見があっため、同年10年16日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」に加え「右膝内側半月板損傷」と診断した。

(3)1審被告は、平成27年11月21日、B病院を受診し、マックマレー検査により内側半月板損傷を示す陽性所見が見られた。
   しかし、同年12月16に再度行われたMRI検査では、前回に認められた右膝内側半月板損傷が改善しているとの所見が得られた。そして、平成28年1月27にB病院を受診した際は、右膝間接の可動域が130度であり、マックマレー検査でも右膝内側半月板損傷を示す所見が「陰性」とされた。
   しかし、1審被告は、その後も、痛みや膝崩れといった右膝の症状を訴えており、右膝関節の関節可動域(屈曲)は、平成28年2月13日が90度、同年3月11日が100度であった。

(4)A医師は、受傷から半年以上が経過しても右膝の症状が緩解せず、これ以上保存的治療をしても治療効果が得られる見込みが乏しいと判断し、平成28年4月8日に症状が固定したとする後遺障害に関する診断書を作成した。同診断書では「右膝痛、屈曲位90度を超えると痛み、階段の昇降時に膝くずれ等あり、歩行時力が入りにくい」との自覚症状があるとされ、膝関節の屈曲可動域は健側(左)の130度に対して右が90度(自動、他動とも)とされた。
   損害保険料率算出機構(事前認定)は、同年5月11日までに、1審被告には、上記診断書において診断された後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残存するものと認め、かつ、右膝関節はその可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されるとの機能障害があり、右膝の神経症状は昨日障害に包摂して評価されるべきものであって、本件後遺障害は全体として等級表12級7号に該当するものと認めた。

(5)1審被告の事故前及び事故後の給与収入は、平成26年分が820万9、203円、平成27年分が830万3,904円、平成28年分が817万8,968円であった。
   1審被告は、西暦2022年3月に60歳となり、同月末をもってa市を定年退職することになるが、特段の事情がなければ同年4月1日から5年間は再任用される可能性が高い。しかし、再任用職員に支給される給与は、通常、定年前支給額の半額程度となる。


 【争点】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
 イ 逸失利益
 ウ 慰謝料
   以下、上記についての裁判所の判断を示す(注:1審原告の損害(本訴)に関しては、原判決・本判決とも、甲車両の修理費5万3,028円を認めた。)。


   なお、上記(2)についての1審(京都地裁平成30年6月14日判決)の判断は、以下のとおりである。
 ア 1審被告の後遺障害
   事前認定おいて、右膝の関節機能障害について12級7号該当とされた。しかし、①右膝の半月板損傷は改善していて、器質的変化が残存したとはいえない(平成27年12月16日)。また、②関節可動域についてみても、初診時から約90度の屈曲が可能であったところ、治療期間中にいったん130度程度まで回復した後に、症状固定時の測定値90度に至ったことからすると(同年8月7日、平成28年1月27日、同年4月8日)、症状固定時の測定値をただちには採用し難い。
   そうすると、12裕7号該当は認められない。
   他方、被告の右膝の痛みの訴えは本件事故後一貫していて、かつ、MRI検査において右内側半月板損傷の可能性が認められたことを踏まえると、同症状は医学的に説明可能なものであるから、14級9「局部に神経症状を残すもの」に該当する。
 イ 逸失利益 111万7,765円
   基礎収入を平成26年(本件事故前年)の年収とし、労働能力喪失率5とした上で、今後の症状に対する慣れが期待できるから、労度能力喪失期間3年間(対応するライプニッツ係数は2.7232である。)と定める。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料    90万円
  b)後遺障害慰謝料 110万円


【裁判所の判断】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
 ア 甲車両は、本件道路を、東から西に向かって走行していたが、1審原告は、前方に対向車を認め、その対向車をやり過ごすため、甲車両を、本件道路左(南)の有蓋側溝に設置された電柱(以下「本件電柱」という。)手前の本件道路左寄りに停止させようとし、ブレーキをかけ、左にハンドルを切って本件電柱の手前の位置に停止した。
   1審被告は、本件道路の左寄りを乙自転車に乗って走行していたが、急に甲車両が左に寄せて来たため、道路を塞がれ、停止することもできず、乙自転車の前かご、ハンドル右側、1審被告の右膝が、甲車両の左側面後部と衝突した。
   前記の事実は、京都府E警察署の警察官が平成27年8月18日に作成した「現場の見分状況書」(注:本件事故の11日後に、1審原告と1審被告の双方が現場に立ち会い、警察官に対してした説明に基づいて作成されたもの)の記載に沿うものである(注:1審原告は、本件事故の発生状況について、乙自転車は、本件電柱を超えて東から西に進行し始めた甲車両に、本件電柱よりも西側で衝突した旨主張していた。)。
 イ 前記認定事実に照らせば、本件事故は、主に、左側を走行する乙自転車に気付かないまま、急に甲車両の進路を変更し、乙自転車の進路を塞ぐように甲車両を走行させた1審原告の過失によって発生したものと認められる。
   ただし、甲車両がブレーキをかけ、すぐに停止している事実に照らせば、甲車両はかなり低速で走行していたものと推認される。1審被告も、本件道路のような狭い道路(幅員約4.5m、その左右(南北)に幅員0.8mの有蓋側溝がある。)を走行する場合には、他の車両の動静にも気を配る必要があるから、本件事故が発生するについては、低速で後方から接近してくる甲車両に対する1審被告の注意が足りなかったことは否定できない。
 ウ 本件事故の発生に寄与した双方の過失割合は、1審原告が9割、1審被告が1と認めるのが相当である(注:原判決と同じ。)。

(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
  (注:下記イにて、本件後遺障害による労働能力喪失率14%を認めていることから、後遺障害等級12に該当すると判断したものと推認される。)
   1審原告は、平成28年1月27日の右膝関節の可動域が130度であり、マックマレー検査の結果が陰性であったことから、1審被告には客観的な医学的所見によって裏付けられるような後遺障害はないと主張する。しかし、本件事故当日から症状固定時までの検査所見や治療経過を総合考慮して、A医師が、本件後遺障害が残存すると診断し、後遺障害に関する診断書を作成している事実に加え、医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされている事実(この事実は、当審証拠(略)により認められる。)によれば、平成28年1月27日の上記所見を捉えて本件後遺障害の存在を否定することは相当ではない。
 イ 逸失利益 1,133万4,446円
  a)平成28年簡易生命表によれば、54歳の男子の平均余命は28.91年であるから、1審被告は、平成28年4月8日の症状固定時(当時1審被告は54歳)においてなお14年間は就労可能であったと推認される。
  b)1審被告は、これまでのところ労働能力喪失に伴う減収が現実化していないし、定年退職までは減収が顕在化しない可能性が高いということができる。
   しかしながら、1審原告は、右膝の痛みや不安定さによって業務の支障が生じないように努力しているものと認められ、そのことが減収を食い止めている面も否定はできない。また、本件後遺障害の内容、部位及び程度と1審被告の職務内容に照らせば1審被告が定年退職後に高収入を得るために再任用以外の転職を試みた場合、本件後遺障害が不利益をもたらす可能性があるといわざるをえない。
  c)したがって、1審被告は、本件後遺障害により、上記14年間にわたり、症状固定時の給与収入817万8,968円の14%の得べかりし収入を失ったものと推認すべきであり、年5分のライプニッツ係数(9.8986)を用いて中間利息を控除し、逸失利益につき症状固定時の金額を算出すれば、1,133万4,446円となる。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料   130万円
  b)後遺障害慰謝料 260万円

(3)結論
  a)本訴請求については、1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
  b)反訴請求については、上記(2)のとおりに原判決を変更し、1審原告の控訴を棄却する。


 

東京地裁平成29年3月13日判決(労働判例1189号129頁)

労働者が、違法な退職強要行為によりうつ病を悪化させた場合、労働基準法19条1項の趣旨から、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない旨判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)原告(昭和39年〇月生)は、平成14年6月に資格取得講座を開設する会社を退職後、非正規社員として稼働しながら、税理士の資格取得を目指して勉強を続けていた。そして、原告と株式会社E(以下「被告会社」という。)は、平成25年3月4日、被告会社の顧問であるK公認会計士(以下「K会計士」という。)の紹介で、同年1月1日付けで、期限の定めのない雇用契約を締結した。
   被告会社は、介護保険法に基づく居宅サービス事業等を目的とする会社である。被告会社は、本社に総務部、経理部等を置くほか、首都圏を中心に合計21箇所の事業所を設置している。

(2)原告は、被告会社に入社後、主としてCの指導の下、同人とともに、帳簿入力その他の経理業務を行っていたが、仕事の覚えは芳しいものではなかった。また、原告は、Cが平成25年6月17日から産休に入ったため、上記業務を概ね1人で担当することとなったが、その処理に誤りが多いことから、同年7月頃からは、FやAらが原告の経理業務を補助したり確認したりするようになった。原告は、この頃から、勤務中に過呼吸状態になることや精神状態が不安定になることがあり、応接室で横になって休憩することもあった。
   原告は、平成25年秋頃から平成26年3月にかけて、Fらから従前の経理業務のほかに、銀行とのファクタリング契約の更新手続その他の業務を指示され、これを行った。しかし、原告の経理業務には、処理の誤りなどが多く、Fがこれについて注意指導しても改められず、同様の誤りを繰り返していた。
   原告は、平成26年1月6日、本社が暫く休業していたため、通常よりも多量な経理業務を処理していたところ、不安、めまい、ふるえ、過呼吸等の症状が出たため早退した。原告は、同月8日、D医師の診察を受けたところ、同医師の診断は、ごく軽症であって就労継続も可能というものであった(なお、原告の傷病手当金の支給申請書におけるD医師の意見欄では、原告のうつ病発症時期は、平成26年1月頃とされている。)。しかし、原告は、同月13日頃にも、勤務時間中に無意識に上体を大きく回すなど精神的に不安定な状態が続いていた。

(3)原告は、平成26年1月頃から同年3月頃までの間、種々の業務上のミスを発生させた。そこで、被告会社は、平成26年5月初め頃、原告を経理業務の主担当から外し、これを同年4月21日に育休から復帰したCと経理業務の経験がある派遣社員のJに行わせ、原告については、経理業務の補助と電話対応業務等を行わせることとした上、同年5月8日、原告に対し、経理業務に使用するパソコンが設置されている席から他の席への移動を命じた(本件配転命令1)。
   被告会社の代表取締役である被告乙は、平成26年5月21日、原告に対し、「もう経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ。」などと述べた(本件退職強要行為1)。このような状況の元、原告は、同月26日以降、出勤をせず、L弁護士に被告会社との交渉を委任した。L弁護士は、同年6月11日、被告会社に対し、原告に対する退職強要行為を止め、経理業務に復帰させるよう要求した。これを受けて、Bは、L弁護士との間で、復帰後に原告が担当する業務内容等について相談をした。
   被告乙、B及びAは、平成26年6月16日、原告と面談した。この際、被告乙は、原告に対し、時折大声を出して一方的に捲し立てた。また、Bは、原告に、今後の業務内容等についての誓約書を書かせた(本件退職強要行為2)。

(4)被告会社が、平成26年6月17日以降、原告に対し、預金口座の残高確認等の業務をさせていたところ、Aは、同年8月12日、原告に対し、被告会社が計画中であった立川分社化パイロットプロジェクトに関するレポート(以下「本件レポート」という。)を1週間以内に提出するよう命じた。原告は、K会計士からの助言も参考として、同月19日、A及びBに対し、本件レポートを提出した。
   A及びBは、同日、原告と面談した。この際、A及びBは、原告に対し、本件レポートの内容が分かりにくいなどと述べるとともに、「お願いしている方が間違い?」、「ご自分でこれはできるというのはないんですか。」などと述べた。原告は、「掃除とかですね、皿洗いとかできるかなと。」などと述べた(本件退職強要行為3)。
   A及びBは、平成26年8月26日、原告と面談を行った。この際、Aは、原告に対し、同人を同年9月1日付けで立川事業所に異動させ、清掃スタッフとして介護施設等の清掃業務に従事させるとともに(本件配転命令2)、その雇用条件を正社員からパート社員に変更するとの提案をした上で(本件雇用条件変更)、同月28日午後3時までに回答をもらうこととして面談を終了した(本件退職強要行為4)。

(5)原告は、平成26年8月27日、D医師の診察を受け、病名「うつ病」、同年1月頃より不安、めまい、ふるえ、過呼吸、職場の対人関係の葛藤等があり、同月8日に同院を初診、精神症状が改善しないため、同年8月27日より向後1か月間の自宅療養と外来通院治療を必要とするとの診断を受けた。
   原告は、同月28日、被告会社に電話をかけて、Aに対し上記診断の概略を伝えた。
   その後、被告会社は、原告から郵送で上記診断書の提出を受けたことから、原告に対する配転命令を発令せず、同人に対し、就業規則40条ないし42条に基づき、同月27日から同年11月26日までの間の本件休職辞令を発令した。
   なお、原告は、同年8月27日から現在まで、被告会社に出勤しておらず、被告会社は、同日以降の賃金を支払っていない。


【争点】

(1)違法な退職強要行為、配転命令及び雇用条件変更命令の有無、雇用契約上の義務の不存在確認請求・慰謝料請求・将来の退職強要行為の差止請求の可否(争点1)
(2)本件休職の帰責性、地位確認請求及び賃金請求の可否(争点2)
(3)未払割増賃金の有無及び付加金請求の可否(争点3)
   以下、上記(1)及び(2)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(3)について、裁判所は未払割増賃金32万3237円及びこれと同額の付加金の支払請求を認めた。


【裁判所の判断】

(1)争点(1)について
   原告は、被告乙、A及びBは、違法な退職強要行為1ないし4を繰り返し、業務上の必要性のない本件配転命令1、2及び本件雇用条件変更命令を行ったと主張するので、以下検討する。
 ア 本件退職強要行為1及び本件配転命令1
   被告乙ないしその意を受けたA及びBが、原告を経理業務の主担当から外したことは、原告を退職に追い込もうとするなどの不当な目的によるものとは認め難く、業務上の必要性に基づくものと認められ、原告に通常甘受し難い不利益を与えるものとも認められないから、不当ないし違法ということはできない。
   また、被告乙が、原告に対し、経理の仕事はないとか、自分で何ができるか考えろと述べたことは、被用者に対する配慮に欠ける面はあるものの、退職を強要するものとまではいえず、直ちに違法不当ということはできない。
   したがって、被告乙、A及びBによる原告に対する違法な本件退職強要行為1及び本件配転命令1は、認めることはできない。
 イ 本件退職強要行為2
   原告が経理業務の主担当から外されたことに不満を持ち、あっせんの申立てをしたり、弁護士に交渉を委任すること自体は何ら不当なではなく、被告会社が原告を経理業務の主担当から外した経緯等を踏まえても、上記乙やBによる本件退職強要行為2(注:その詳細につき、別紙2・労働判例1189号・145頁以下参照)が正当化される余地はなく、その態様の悪質性からしても違法というほかない。
 ウ 本件退職強要行為3、4、本件配転命令2及び本件雇用条件変更命令
   被告会社が原告に対し、立川事業所において清掃スタッフとして勤務することを命ずる旨の本件配転命令2やこれに伴い原告の雇用条件を正社員からパート社員に変更する旨の本件雇用条件変更命令を発令したと認めることはできない。
   しかし、A及びBは、本件退職強要行為2やその後の処遇に委縮する原告に対し、上記配転命令発令の可能性に言及しつつ、辞職を迫ったものであり(注:その詳細につき、別紙3及び同4・労働判例1189号・146頁以下参照)、その態様等に照らして、本件退職強要行為3、4を正当化することはできず、違法と認められる。
 エ 雇用契約上の義務の不存在確認請求の可否
   上記ウによれば、被告会社は、本件配転命令2を発令したと認めることはできず、現時点においても、これを前提とした主張はしていないから、本件訴えのうち、原告が、被告会社立川事業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求める部分は、確認の利益が認められず、不適法却下を免れない。
 オ 慰謝料請求の可否
   上記イ及びウによれば、被告乙、A及びBによる本件退職強要行為2ないし4は違法であり、原告に対する不法行為に当たる。
   被告らの不法行為による原告の損害は、合計33万円と認めるのが相当であり、他にこの認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
 カ 将来の退職強要行為の差止請求の可否
   原告の被告らに対する将来の退職強要行為の差止請求は、認めることができない(詳細略)。

(2)争点(2)について
 ア 平成26年1月頃発症したうつ病自体に業務起因性が認められるか否かは判然としない。しかし、原告は、その後も勤務自体は可能であったところ、被告乙、A及びBによる違法な本件退職強要行為2ないし4によりうつ病を悪化させ、職務に従事することができなくなったものと認められる。
   そうすると、原告は、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則40条(1)「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない。
 イ 上記(1)ウのとおり、被告会社の原告に対する本件雇用条件変更命令の発令は認められない。しかし、被告会社は、原告が休職期間満了に伴い退職したとして、本件雇用契約の終了を主張している。よって、原告の被告会社に対する地位確認請求は、原告が、被告会社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める限度で理由がある(注:他方、正社員として勤務する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は認められない。)。
 ウ 上記アのとおり、原告は、本件退職強要行為2ないし4により。うつ病が重篤化して就労ができなくなったのである。よって、本件休職期間中の労務提供の不履行は、使用者である被告会社の責に帰すべき事由によるものであるから、原告は、民法536条2項に基づき、以下のとおり、被告会社に対する賃金請求権を有する(なお、原告が、(注:平成27年9月頃)傷病手当金の支給申請をし、これを受給していたとしても、これをもって原告が業務外の傷病であることを自認したとか、本件休職期間中の賃金請求権を喪失したと解することはできない。)。
  a)平成26年8月分の未払賃金(欠勤控除分) 2万9241円
  b)同年9月分以降の賃金 月額21万2000円(基本給15万7000円、業務手当5万5000円の合計。なお、原告は、平成26年8月27日以降、被告会社に出勤していないから、通勤費2万2940円の請求は認められない。)

(3)結論
   以上によれば、本件訴えのうち、原告が、被告会社立川事業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求める部分は、確認の利益がないからこれを却下し、原告のその余の請求は、主文第2項ないし第6項(略)の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する(一部認容)。